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ギリシア棺の謎 (創元推理文庫 104-8)

価格: ¥1
カテゴリ: 文庫
ブランド: 東京創元社
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スライスで機能した哲学 ★★★★★
 国名シリーズの第四作。大学を出てまもないエラリーが悪魔的な怪事件に挑む。名探偵の存在意義に対する矛盾は、後期のクイーン作品に
濃厚に顕れていますが、本作においてその先鞭はすでに存在しているように感じる。探偵小説のリアリティにおいて神の叡智を持つ探偵役。
しかし、残された手がかりから推論を組み立てる探偵の裏をかいて、悪魔的な意図をもってして偽の手がかりを故意に残したケースを題材と
しているのが本作の特徴だ。
 それ故に、この一作でエラリーは自我の虚栄心とも相まってとことん犯人に手玉にとられて苦境に追い込まれてしまう。やっとの思いで、
推論を完成形に仕上げたと思えば、実はそれは土台からてんでまがいものに過ぎなかったと粉砕されてしまう。真相に辿り着くためには、
何層もの障害物を乗り越えなければならず、とても深遠なのだ。
 だが思うに、そこに一種の哲学を感じてしまう。というのは、名探偵の代名詞といえるホームズの登場に続いて雨後の筍のように出現した
名探偵連中。そしてそれを忌避する姿勢で出現した所謂足で稼ぐタイプ。その100か0の極端なところに留まらず、あくまで名探偵に人間性を
与えた点においてクイーンは本質的に斬新だった。
 ただ同時に歪みをきたすのもまた事実。名探偵を解剖する過程において、名探偵を超える悪魔的な頭脳が必要なのだ。よって本作の犯人は
やたら頭が良い。あまりに良い。。その観点から見れば、この謎物語は論理的にはフェアだが、謎解きしたい読者にとっては愉しみに欠ける
のかもしれない。つまるところ、本質的に突き詰めれば神と悪魔の境界線なんてなくなってしまうの。。そんな皮肉まで愛せるだろうか?
「読者への挑戦状」が4つあれば... ★★★☆☆
本書は前作「オランダ靴の謎」と次作「エジプト十字架の謎」とともに、国名シリーズベスト3と名高い作品。

前作「オランダ靴」では完璧な論理を見せたエラリーだが、本書ではすぐにその推理を覆す事実が発覚し、若さゆえの未熟さを何度も露呈している。つまり本書はバークリーの「毒入りチョコレート事件」の流れを汲むいわゆるアンチ・ミステリーなのだが、このアンチ・ミステリーというやつ、推理の論拠の解釈によって解決が変わってくるというシロモノで、推理小説の知的パズル要素を否定されているみたいで好きになれない。いったい何でロジックの鬼であるはずの作者がこのような作品を書いたのかと思う。

もしもこれが、例えば個々の推理の前に「これまでにエラリーに与えられたデータは、等しく読者にも提供されている。したがって、これらのデータをもとに行われる推理はエラリーと読者諸賢では同一のものであるはずである」と、「読者への挑戦状」を差し挟んでいれば、本書のパズル小説としての評価はまた違ったものになったかも知れないが。

それと、個々の推理に関しても「オランダ靴」で見せた完璧な論理ほどのものではなく、穴やこじつけというかそれはムリだろうという点もいくつか見られ、国名シリーズ最高傑作と評される理由がわからない。それに、とにかく冗長で読むのがしんどい。何度挫折しかけたことだろう。

私なら国名シリーズベスト3には本書の替わりに「フランス白粉の謎」か、推理作品としてはイマイチだがストーリーの面白い「シャム双子の謎」の方を推す。
ミステリにおける決定不可能性の問題 ★★★★★

《国名》シリーズにおけるエラリーの推理とは、あくまで証拠に基づいた
緻密な論証を展開することによって、犯人を指摘する、というものです。

しかし、そうしたエラリーの思考を逆手にとった犯人が、
意図的に偽の証拠を残した場合は、どうなるのか?

探偵は、証拠の真偽を見極めることができるのか?

そして、ただ一人、小説世界の事件の「外部」に位置し、そこから
全てを解き明かすという探偵の特権性は、どうなってしまうのか?

本作は、以上のようなミステリにおける決定不可能性の問題や
探偵への懐疑を、無自覚かつ先駆的に取り上げた作品です。



作中においてエラリーは「犯人は自分に不利益な行為はしない」という原則のもと、
物的証拠を吟味し、取捨選択していきますが、そこには作者の恣意性が抜きがたく
存在しています。

また、エラリーが推理の根拠とする証言に対し、
偽証の可能性を検討していないのも問題でしょう。

証言が証拠能力を有するか否かを判断する場合、事実誤認の可能性や、
人間が虚偽を語りうる存在であることを当然念頭におくべきですが、
本作では、その手続きは無視され、論理的な整合性を保つために、
作者の恣意的な価値判断を導入せざるを得なくなっているのです。

偽の犯人をつくり出すため、意図的に偽の証拠を捏造する真犯人、
という存在が組み込まれた本作は、「手がかり‐推理」という、
ミステリの構造を多重化・メタ化しています。


しかし、作者としてはそうした「実験」を追究しようという意識はなく、
たんに、 名探偵の出発点における失敗譚を示すことで、キャラの
理由付けをしたかっただけなのでしょう。

結末においてのみ推理を開陳するという、名探偵の不自然さを
正当化するために書かれた本作は、図らずも、形式が本質的に
持つ不確定性を暴露してしまったといえます。




最高傑作 ★★★★★
僕は本作が、「意外な犯人」の最高傑作だと思ってます。高校のとき読んでて、犯人がわかったとき思わず、登場人物表を見直しました。
「Yの悲劇」みたいにおどろおどろしさがなく、探偵エラリーもサラッとしたキャラなので(ファイロ・ヴァンスやドルリー・レーンに較べてってことですよ)、「伝説」の域までは評価されていませんが、冷静に読めば「本作」のほうが、ずっとよく考え抜かれているのがわかるはずです。
殺人現場の見取り図もあるし、読者への挑戦状もあるし、古きよき時代の本格物の楽しさを満喫させてくれます。
マニア好みの?? ★★★★★
 クイーンの国名シリーズの最高作といっていいと思います。

 ただし、誰が読んでも面白いという作品ではないと思うのです。パズラーの教科書といってもいい「オランダ靴の謎」、論理的解決など不可能ではないか?と思わせる連続首切り事件を些細な証拠から解体してみせる「エジプト十字架の謎」が万人受けする作品だとすると「ギリシア棺の謎」はマニア好みの作品なのです。

 名探偵と同等いやそれ以上の知力を持った犯人が「こいつならこんな具合に推理するに違いない」と偽の手がかりをバラマキ探偵を翻弄する。いわば、神懸かり的な知性を持った盤面の敵を相手に名探偵エラリーが散々翻弄される物語なのです。そもそもそうした犯人を演繹的推理で追い込む事は可能なのか?どれが本当の手がかりでどれが偽の手かがりかどうやって判断するのか?パズラーの持つ弱点を浮き彫りにしていくのです。

 はたして、この成果は??正直に言うと作者クイーンの意図は完全には達成できたとは思えません。最後に明かされる真相すら「それが、偽の手がかりによって導かれたのでないとどうしていえる?」という疑問がないわけでない。

 とはいえ、やはり、この作品は傑作だと思います。「オランダ靴の謎」「エジプト十字架の謎」がいわばパズラーらしいパズラーの傑作だとしたら、「ギリシア棺の謎」はパズラーの枠組みを意図的に逸脱しながら尚かつパズラー以外の何者でもない希有な作品なのです。しかも、歪な部分があるとはいえ完成度は極めて高い。

しかしながら、あくまでマニア好みの作品だと思います。クイーンを最初に読む場合、本書はおすすめできない。しかし、パズラー好きを自認するなら必読の書だと思います。