江戸時代というと、とかく古めかしい印象がつきまといがちだが、そこには驚くべき事実と、現代へのヒントが隠されている。離婚や再婚が頻繁に行われていた、というのも興味深いが、何よりも文明が発達する過程で人口が増加し、成熟するにしたがって晩婚化・少子化が進んだという現代にも通じる変化に注目したい。
さらに、現代の金融政策にあたる貨幣改鋳とそれがもたらした幕末インフレーション、幕府財政の赤字、急激な物価の上昇によってもたらされた農民一揆や打ちこわしなど、現代に生きるわれわれにとっても決して無視できない歴史的事実が述べられている。ちなみに幕末のインフレ時には米価が約11倍になり、「都市でも農村でも、賃金の上昇はつねに物価上昇に遅れをとったから、実質賃金は1880年頃までは低下する傾向にあった」という。これが「企業家にとっては利潤拡大を意味し(中略)旧来の都市商家のような金融資産をもつ者には不利に働き、地方の実物資産をもって事業をおこなうような者には有利に働いた」。
このように、本書にはビジネス・経済をはじめ、あらゆる分野に応用できる知恵が詰まっている。単に経済動向を読むだけでなく、その結果人々の生活がどうなるか、家族や人間関係がどうなるか、そのヒントを示したという点で、本書の意義は大きい。(土井英司)