言語学を知らない私のような素人向けに書かれている
★★★★★
第1章 言語学をはじめる前に―ことばについて思い込んでいること
第2章 言語学の考え方―言語学にとって言語とは何か?
第3章 言語学の聴き方―音について
第4章 言語学の捉え方―文法と意味について
第5章 言語学の分け方―世界の言語をどう分類するか?
第6章 言語学の使い方―言語学がわかると何の得になるか?
著者は1964年(東京都)生まれ。上智大(外国語学部ロシア語)卒業。東大大学院(露文科)修了。東工大と明大を経て,退職(07年3月,43歳)。何故だろう。専攻は言語学(「スラブ諸語における両数の研究」(4頁))。最初は(地味に,失礼!)地道に『ウクライナ語基礎1500語』みたいなのを出しながら(著者31歳),たぶん,NHKテレビでロシア語会話の講師(01〜02年度)をやったのが彼の人生の転機だったんだろう,以後ブレークしたようで,これ以降,外国語がらみの雑本が多い。新書で3冊も出している。08〜09年度には,NHKロシア語講座の講師もやっている。ウクライナ語に始まってロシア語を経由し,退職以来,おもに雑本だが毎年著作を発表し続け,09年には英語にまで進出している。本書は著者が40歳の時の作品。著者近影を拝見すると,童顔ながら,女性好きのしそうな相貌。明大で女子学生に人気がありすぎて,周囲から嫉妬されていられなくなったのかなぁ。
本書趣旨は題名通り。言語学を知らない私のような素人向けに書かれている。実際,理解にストレスを感じない。ソシュールとかチョムスキーとか,ミーハーでも知ってる言語学者の名前も本文には出てこない。たぶん,当時勤務していた大学で,理工系の大学生に向けて教科書として売ろうとしたからだろう。ボヤキのような文章やシレっとギャグをかますあたり,面白い文章を書ける研究者だとお見受けした。
私は中学生のときに外国語大学進学を決意し,中高時代は英語やら通訳ものやら言語学関係やらを気の向くままに読んでいた。当時仕入れていた断片的知識にあった「ウラル・アルタイ語」などという分類は,言語学的にはもう妥当性がないということを知って驚いた。30年も昔だと知識が古くなってしまうんだねぇ。オジサンは悲しいよ。
(882字)
入門の入門なのでは?
★★☆☆☆
読みやすいと書かれている方も多いようですが、それは本当です。ただ、これは入門書というよりはそのさらに入門ではないかと思います。
本書内では「言語学について何も知らない人を対象に書いた」とありますが、想定は高校生くらいのようです。私には、言語学がどんなに誤解されているか(例:動物に言語はない、美しいとか乱れている言葉という概念は言語学で扱わない、語源学とは違うなど)当たり前すぎてだから?と思われることへの反論がやけに長く感じてしまいました。それを「そうなんだー!」と思える人向けなのでしょう。
人によっては軽妙と思える文体も、特に第一章は、私には二言くらい余計に感じる部分が多く、イライラしてしまいました。
また、チョムスキーの生成文法理論への言及は、言語学者の間では評価が分かれているのだと分った点は良かったですが、個人的にこの理論が好きなので、懐疑的な理由をもう少し教えてほしかったですね。
「語学入門」は「言語学入門」にあらず
★☆☆☆☆
易しい内容と優しい語り口、読んでいて心地よい本です。また、他のレビューにあるとおり、文献も良いものが紹介されています。しかし、全体として高く評価することはできません。内容が浅過ぎるからです。
多少古いイメージかもしれませんが、新書は「知」を買うものだろうと思います。しかし、本書に盛られている内容は、その「知」の部分があまりにも少ないのです。従って、本書の上に「言語学」という建物を建てることは不可能です。
理論言語学、認知言語学、心理言語学、社会言語学、コーパス言語学など、言語学関連の諸分野を網羅することだけが「言語学入門」のあり方だとは思いません、ですが、これを読んだ、言語学に縁のない人が「言語学ってこんな(程度の)もんなんだ」というイメージを持つことを恐れます。
「にぎやかな言語学」を志向する筆者は、ポリグロットとして力のある方だとお見受けします。ならば、その良さを生かした「知」的な本に仕立てられなかったものでしょうか。本書で紹介されている内容は「語学」であって「言語学」ではありません。
本書は「語学」好きのエッセイとしては面白い内容だと思います。しかし、本書を読んだだけで「言語学」についてわかった気になってほしくない。それが率直な読後感です。
言語学の入り口に!
★★★★★
言語学って何をやるのかということを知るにはもってこいの内容。
語りかけるような調子で書かれているため、あっという間に読み終えることができる。
言語学の入門書を読むと、どうしても音中心の解説になってしまう印象があるが、文法、意味、分類
についてもバランスよく書かれているため、決して飽きずに読むことができる。
かつ、それぞれをより深く知りたい人のために入門書の紹介などもあり、まさに言語学入門書の入門書
といった内容であり、少しでも言語学に興味がある人にはまず一読をおススメしたい。
言語学入門・入門
★★★★☆
言語学とはどう言ったものか、雰囲気を掴むのには最適。言語に興味がある高校生にちょうど良い。中学生でも読めるんじゃないだろうか。文学や教育学で特定の言語を専攻するのと、言語学で特定の言語を研究することの違いが最初に明確に述べられている。音声学と形態素に関しては少しだけ専門的な部分まで踏み込んでいるが、その他の理論言語学に関しては、生成文法と語用論の紹介だけとなっている。言語学について少しかじっているけど基礎はよく知らないという人が、基礎を学ぶために読むのには適さない。
難点を言えば、前半80pまで言語のユニークさを論じているのだが、半分くらいは「言語は動物にもある説」の否定的議論になってしまっている。しかし動物言語はまだ分からないことばかで、著者自身もそれを認めているので、議論が中途半端(例えば冷静を装って恫喝するような恣意性は人間だけだと著者は言うが、冷静を装うことがハンディキャップシグナルだとしたら、理論上は他の動物にも恣意性が見られてもおかしくない、と動物行動学者なら言うだろう)。ここはもっとスマートにまとめられたはず。後半は世界の言語のトリビアや日常生活への応用、マスコミに見られる通俗的な言語学説への批判などだが、内容はやや薄め。この辺は新書だから一般の読者を意識したのか、息切れしたのか分からない。