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ライ麦畑のミステリー

価格: ¥2,415
カテゴリ: 単行本
ブランド: せりか書房
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ライ麦研究の最前線 ★★★★★
 米文学の論文を書く際に、世界中の研究者たちがまずチェックするという、ハロルド・ブルーム編集のModern Critical Viewsという叢書がある。2008年に出版されたJ.D.サリンジャー論集の中に、おそらく日本人では初めて、著者である竹内康浩氏の論文「THE ZEN ARCHERY OF HOLDEN CAULFIELD」が掲載されている。
 その論文の内容とは、本書の中でも(さらりと)書かれている、弓の達人阿波研造とホールデンの関係についてだ。これは、よく考えれば驚くべきことではないか。なぜなら"The Catcher in the Rye"の最新の研究を、この本ではわかりやすい言葉で読むことができ、さらには、著者のより深い考察まで知ることができるのだから。

 個人的な感想ではあるが、私はこの本から希望をもらった。たとえ日本人でも一つの作品についてとことん考えれば、世界で第一線の文学研究者になれる可能性もあるのだと。

これは面白い! ★★★★☆
サリンジャーの"The Catcher in the Rye"に関する研究本は数多く出版されており、また多くのことが言い尽くされている中で、本書は近年書かれた中で非常に良く書かれた「論文」であると思う。
まず、論の構成がわかりやすく、一つ一つの論点とその結論がきちんと示されている。また、色々な論をばらばらに立てていくのではなく、ひとつの大きな主題を支えるために細かい論について一章ずつ検討していくという形がとられていて、非常に読みやすい。また、こういった研究本にはありがちな難しい言葉を多用するのではなく、身近な言葉で書かれている点も本書の「読みやすさ」を支えているといえるだろう。
次に、一つ一つの論に関してのリサーチが非常に良くなされているという点が見事である。単なるリサーチに終わらず、そこから著者の考察、主張が明確に示されていて、その説得力を高めるために効果的にリサーチがなされているといえるだろう。また、作者の前著と内容が重複する部分はあるが、中には前著での自らの主張を訂正するという姿勢も見られて、著者の研究の流れを垣間見られるようでもある。
著者もあとがきで触れているように、たしかにやや「マニアック」な読み方過ぎるかもしれない。実際にそこまでサリンジャーが考えてこの"Catcher"を書いたのかは、疑問である。
しかし、ここまで様々なことを考え、調べ、いわば「豆の殻をむく」作業を進めてきた著者の、この作品に対する愛情や情熱が感じられることはたしかである。本書は"The Catcher in the Rye"という作品のひとつの「読み方」の提示なのであり、作品に対する絶対的な答えではないのだ。著者の主張は、私たち読者が「作品を『生きる』」ことなのである。大切なのは、ただ「読む」だけでなく、ここから私たちが「考える」ことを始めるということである。その上で、この『ライ麦畑のミステリー』は、その上で大きなヒントとなり得る作品だろう。