本書では、学習のための哲学と習慣を組織が身につけるための10のステップが提示されている。このステップを順序よく踏めば「真の学習する組織」になるというわけだ。
これからの職場は、家にいるときと同じような感覚で過ごせる場所でなくてはならない、と著者たちは言う。すなわち、皆が一緒に活動するのを楽しみ、さまざまなことを共有し、クリエイティブでいられる場所。チームワークで目的を達成し、同時にひとりひとりが率直でいられる場所。これからの職場は、そういう場所でなくてはならないという。
組織学習へ向けて著者が提示する手法は、すべて当たり前に見える。けれどもその当たり前のことを実践させるために、じつに細かい工夫が凝らされている。「リフレーミング」と著者たちがよぶ手法は、その例だ。これは目の前の現実を新たな視点で見つめ直し、さまざまな事実の中からポジティブなものを拾い上げ、ネガティブなものを後方へ押しやる作業の意だ。そのための「グッド&ニュー」(メンバーひとりひとりに、過去24時間以内にあった良い出来事を話させるもの)という手法もおもしろい。ゲーム仕立ての工夫がたくさん紹介されている。
説明に使われているエピソードもおもしろい。マクドナルドで働いていたひとりの女性は、客に釣銭を渡すとき、右手で釣銭を手渡しながら、必ず左手で客の手を下から包むように支えることにした。このささやかな行為は、客を喜ばせ、他の店員にも影響を与え、店の雰囲気を一変させたという。
この本は、読んでいてさわやかな本だ。きっと、人間の対するポジティブな信頼がベースにあるからだろう。アメリカの産業の「草の根」の強さといったものを感じさせる本でもある。(榊原清則)
10STEPSのなかで重視されているのは、①現状を正確に把握すること、②段階別に進むことの2点にあると感じる。
組織が結果を残すためには、社員一人一人のモチベーションを上げるのが最も効果的だが、最も時間がかかるものである。
理論的な事例が豊富に出てくる点が素晴らしいと思うが、あまりにも多すぎて本書の骨子を忘れそうになることがある。10STEPSを行なって成功した事例が十分ではないのかもしれない。
ステップ7の「ビジョンを描く」からスタートし、ビジョンに必要な社員像を決め、そのために必要な学習、スキル、習慣を決めた方が効率的で混乱が少ないと思いますが、ある程度開放的な組織風土で、既に学習するという文化が根付いている場合には本書のフローの方でうまく流れると感じます。
個人の成長が最大の差別化となる現代において、学習する組織と企業目的は表裏一体であり、企業目的に学習する文化は包摂されると理解しました。
そのまま実践しづらいので、本書のエキスを使って、組織改善に使用しております。
問題は書かれている内容を気恥ずかしいと思わずに組織で実践することができるか否かである。筆者が主張するようにすべての「プロセスを順番どおりに実行していく」ことは難しいし、必須であるか疑問である(「学習する組織」でないことの証明かもしれないが)。
全体としては一読の価値はあるが、訳文の関係もあり、表現が回りくどく、エピソードも分かりにくい点が少なくない。重複を避け、効果的な図解を用いれば、5分の1の分量にまとめられよう。
本文における不備な個所の具体的な例を掲げれば下記の通りである。
1. p. 23 の The Fifth Discipline と p. 397 の「第五のディシプリン」の対応が不明確。
2. p. 194の「いろんな色のマジックペン」の用途の記述が見られない。
3. p. 227の「ドローイング」は「絵を描くこと」と思われる。
4. p. 298の「200億人」の根拠が明示されていない。
5. p. 386の「98パーセント」の根拠が明示されていない。