日本近代美術の歩みを、簡潔・包括的に解説☆☆
★★★★★
本書は、昭和期に活躍した美術評論家で
多くの美術館の運営にも携わった著者が
日本の近代美術を概観する著作です。
岡倉天心、フェノロサに始まる近代日本画と黒田清輝に始まる洋画。
そして、高村光雲に始まる近代彫刻。
著者は、個々の作家や作品に注目しながらも、
同時に美術史の大きな流れを描きます
また、それら明治以降の近代美術の基礎を築いた、
亨保期の蘭学・蘭画の継受についても触れられているのも、本書の大きな特長です。
朦朧体と岡倉、黒田の関係についての指摘や
芥川龍之介による中原悌二郎への称賛
など、どれも興味深い記述ばかりでしたが
とりわけ9章で論じられる「社会思想と造形」は印象深く
小川芋銭、北川民次、野田英夫などはキチンと見たことがなかったので
今度、画集を見てみようと思いました。
およそ半世紀を経てもなお瑞々しい文章によって、
日本の近代美術の豊潤さを語る本書。
近代美術に関心がある方はもちろん
絵画や芸術を愛するすべての方にオススメしたい著作です。
読みやすいですよ
★★★☆☆
もともとは、岩波新書で出ていた『日本の近代美術 (1966年) (岩波新書)』を文庫化したもの。
扱ってる時代は、西欧の近代画法がたらされた江戸・享保期、たとえば司馬江漢から第二次大戦終了時点までの絵画・彫刻で、戦後に関する記述はほとんどといってぐらいない。だから岡本太郎氏なんかは登場してこない。
主題は、(1)日本の近代美術史が西洋からの性急な移植の歴史、(2)旧来からある日本画などの伝統美術との対立・抗争の二点である。個々の画家や彫刻家を論じることを通して、上記ニ主題や、性急さに伴う「浅さ」「浅はかさ」(これは、西洋画を受容した側にとどまらず、伝統の立場に立った側も同様である)や、日本的アカデミズムや官僚統制による歪みや停滞について論じている。