丁寧に作られた映画だが、突き上げてくるものが足りない。
★★★☆☆
1943年、敵国のスポーツである野球に向けられる眼が厳しくなって6大学野球が廃止され、大学生に対する徴兵猶予が停止されることとなった状況下で、戦場に赴かなければならない野球部員のために最後の早慶戦を挙行しようと頑張る早稲田大学野球部顧問飛田穂州(柄本明)、賛成の慶応大学塾長小泉信三(石坂浩二)が、津田左右吉問題等があってこれ以上当局ににらまれることを危惧する早稲田大学総長田中穂積(藤田まこと)の反対を押し切って、戸塚野球場に早稲田チームが慶応チームを招く形で試合を挙行する。それに個々の学生の揺れる心をからませた反戦映画。柄本明、藤田まこと、石坂浩二の存在感はさすが。しかし、肝心の試合は練習を中止して部員が親元に帰っていた慶応チームの練習不足が理由で、早稲田の一方的な勝利となり緊迫感がない。試合の描写も非常にあっさり。最後の応援歌の交換で盛り上げたかったのだろうが、ロングの撮影で今ひとつ。また、個々の野球選手の描き分けが十分ではない。特に慶応の選手たちはその他大勢的な扱い。その中では、早稲田の選手戸田順治(渡辺大)の家の中での葛藤にはフォーカスがあてられおり、父(山本圭)が本音を明かす場面は胸を打つ。65年前にこのようなドラマがあったことを語り継ぎ、本作に込められた反戦のメッセージ、若くして散った学生の思いは大切にしなければならないと思うが、正直なところ、映画の出来としては並、というのが私の感想。
それにしても、今年になってから柄本明、富司純子が出演する映画を何本観ただろうか。両人の演技(本作では特に柄本明)は本作でも光っているが、同じ俳優に依存してばかりでは、近年好調の邦画の先行きに若干の懸念を感じる。