大衆視点が親近感を感じます
★★★★☆
いわゆる名画解説ですが、学術的でなく、かといって軽薄でもなく、さくっと読みやすい。
構成は、各章の冒頭に作品の写真があって、参照しながら全15作のみどころが分かる。
既成の評論や歴史にとらわれない筆者の視点が、口語調で表現されていてエッセイとしておもしろい。
ただ、最後の2章(ルノワール、アングル)は批判に終始しており、論調がそれまでの賞賛評とは一転する。どうなっちゃったのよ、という感じ。
そのため、読み終えた時の後味が少し悪い。ギャップが筆者の狙いだったのかもしれないが、この2章はアクセントとして、途中の章で挟み込めばよかったように思う。
そういえば、大橋巨泉も自学でこの種の解説書を書いていて、独自の鋭い視点に感心した。ただ、あちらは現地まで行けるお金持ちや、時間に余裕のある人向けという印象。それはそれで個性的だが、本書は大衆目線で親しみやすい。
自分の感覚で見る
★★★★★
要は世間の評価にとらわれずに自分の感覚で見ればいい、っていうことだと思います。
駆け足で見る、自分が絵画を買うつもりで見る、っていうのはNHKの「ためしてガッテン」
の元ネタだったんですね。
見て美味しいのが名画!
★★★★★
著者の言う名画鑑賞のポイントは「見て美味しいか?美味しくないか?」ということに尽きます。しかし名画は有名であるが故に、世評やその価値(値段)によって、見る前から頭で判断してしまって、名画を見る本来の楽しみ、喜びを忘れがちです。
本書では基本的に著者のお気に入りの名画については、どこが好きなのか、気に入らない名画については、どこが嫌いなのかをいつもの平明な語り口で語ってくれます。そこでは絵画の歴史についても触れられており、時には何気に現代美術批判まで紛れています。語り口はソフトですが、言っていることはシビアです。それは以前、前衛芸術家として活動していた頃の自分自身に対する反省でもあるようです。
現在では路上観察や立体写真が好きな一風変わった好々爺というイメージですが、さまざまな紆余曲折を経て著者がたどり着いた地点が、路上観察や立体写真が名画と同列に並んでしまう「眼の快楽としての芸術」という視点ではないでしょうか?
(姉妹編、日本画編も面白いですよ。)