貨幣の構造的問題
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19世紀、金銀の相対価格の変動を通じた「金本位国/銀本位国」の景気の変動(デフレ/インフレ)。
(実体経済とは関わりのない)貨幣的要因が、景気を大きく変動させることが、よく実感できました。
併せて「決して普遍的に最善な通貨制度というものがあるわけではない(増田孝(三井物産専務理事))」ことも・・・。
「時間差をともなった支払いの手段」貨幣(利便性)の代償・・・
「契約が結ばれた時点における当事者の予想とは異なってくる」
国内経済よりも国際為替の安定を優先させた金解禁(1930年)・・・
貨幣的要因が、景気を変動させることが自明視される中、
新平価ではなく、旧平価(→デフレ)での復帰に拘った井上準之助・・・
「イギリス(1931年9月)を初めとして、数多くの国が金本位制を離脱したことにより、
日本一国だけが金本位制を維持することによる経済的利益はほとんどなくなった」
「金本位制を離脱したイギリスを初めとする国々は、為替レートを大幅に減価させたから、
いまだに金本位制を維持している日本の円は、そうした国の通貨に対して割高になる。
円高は日本の輸入を増加させる一方で、輸出を不利にするので、日本の国際収支は悪化して、
金による支払いが増え、金準備はますます減少する」
「一体、何に井上はプライオリティを置いていたのか。それがどうもよく判らない」
温故知新
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もし、ある本に驚かされる記述が一つでもあれば、その本は読むに値すると思っている。それほど、内容のある本は少ない。しかし、この本には各章ごとに、いたるところで驚かされる。本当にこの本は、80年前の出来事を書いた本なのか?これからまさに世界が再び体験しようとしていることの預言書なのではないかと思わされる。そして、いろんなアナリストの出している予想の多くがいかに的外れなものかがよくわかる。もちろん現在は当時よりさまざまな点で進歩している。経済理論も進んでいるに違いない。しかし、人間が行うことなのである。この本を読むと人間というものが、いかに学習をしない生き物かということがよくわかる。しかし、われわれは、先人の経験を乗り越えなければならない。まずは先人の経験を学習しなくてはならない。この本は、その第一歩である。この本には恐慌に対処する回答はない。だが、何をしてはいけないのかについては記述されている。本当に多くのことを学ぶことができる。 周知のとおり、このデフレの解決は戦争に委ねられたというのが歴史的事実である。この本と対話することで、この事実を乗り越える方法を誰かが発見してくれればと願っている。
これは壮大な歴史物語だ
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本編は、貨幣制度に焦点を当てた経済の書物であるとともに、壮大な歴史物語である。例えば、司馬遼太郎の「坂の上の雲」を読んでいるように、登場人物の息づかいが聞こえてくる。著者の筆力には敬服する。
物語は、日本で言えば明治初頭の英国の経済情勢から始まる。そして、金本位制、銀本位制、その併用といった貨幣制度を明治の伊藤、福沢、渋沢、松方等がどのように考えていたかにつながっていく。また米国の状況も饒舌に語られていく。有名な「オズの魔法使い」の物語は、実は当時の米国の貨幣制度の政治的状況をもじった寓話であったことも、エピソードとしておもしろい。
高名なケインズが、第一次大戦の戦後処理に関して、戦敗国を含めた世界経済の建て直しに心を痛めるも、英米の思惑のため、その政策は採用されなかった。この誤った戦後処理が、世界をして、第二次大戦への一歩を踏み出させることになったくだりは、経済面からの一面的な見方ではあるが、心に迫るものを感じる。
本書は、高橋是清をブックカバーにし、二・二六事件での彼の非業の死を持って幕を閉じる。高橋らの恐慌に対する経済政策の是非を、当時の状況を踏まえながらも、現在の経済学の視点で評価し直す過程もおもしろい。FOMCのグリーンスパンやバーナンキなど今耳目を集める人達の金融政策論と比較して、語れるその内容たるや、筆者の面目躍如というところか。
さてこれから、今度はグリーンスパンをブックカバーにした下巻を読むとしよう。
経済史は社会史!!
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デフレ本が誠にたくさん刊行されていたが、こうした稀な経済的経験をこれからの産業社会や、人間歴史のなかで活かして行こう、そして人間社会のよりよい明日のために学んでおこうと思わせるような書物は皆無であったと断言しておこう。ハウツー書を馬鹿にしているのではない。
それらはいつの時代にも必要である。その多くは「安心する」ためのものであったとしても。
しかし、ここに唯一の例外が登場した。竹森俊平の本書である。
『世界経済の謎』や『経済論戦は甦る』といった頗るつきの好著をものした経済学者による、歴史大著である。立花隆の『天皇と東大』も同様だが、これだけのボリュームと汗牛充棟の資料を駆使した大冊であれば、中身を熟読するだけで十分に時間がかかるが、参照文献のいちいちを覗くだけでも数年、数十年を要する。元手がかかっているのである。
ニッポンのビジネスマンとやらも、今やその多くが学士さんであろうから、それそれ「すぐわかる」とか「サルでもわかる」とかのお手軽本は卒業して、こういう大作に挑んではどうか。とまあ、おせっかいをいってみました。
デフレの3度目は回避されたというのが著者の結論であるが、政治経済的にはその判断は微妙だ。斑状の経済回復が格差の顕在化を助長しているのみならず、「戦争と平和」という古くて新しいアポリアを国際間のみならず、国内、地域社会にまで呼び寄せているからだ。
監視カメラで覆われた生活空間は、戒厳令のそれである。
居酒屋の政談や、下ネタが共謀罪に問われかねない。
中村政則の名著『昭和恐慌』以来の、経済史の不穏な道行を描いた傑作である。それは社会経済史であるほかない。
マクロ経済がよくわかるようになる
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19世紀後半から現代にかけてのマクロ経済史。貨幣制度の変遷を軸にして、経済政治上の出来事を、対応した当事者たちのさまざまな議論や分析、そして現在の経済学のレベルでの検証と解析、を加えて問題を色々比較している。「歴史は現在の鏡」というが、非常におもしろい読み物になっている。マクロ経済のテキストを読むよりこの本を読むほうがずっと実態経済をマクロでどうとらえるかを体感できる。本書を購入した目的は、日米の現在の経済状況をどうとらえるべきか? という疑問に対する手がかりを得るためであった。十分に答えてくれた。