わかりやすく面白い。特に、今回のギリシャ危機の背景を深く読むことができた。
★★★★☆
本書は、世界経済危機後の各国の中央銀行の対応と、今進行しつつあるギリシャ危機の発生のメカニズムの詳細な分析などホットなテーマを中央銀行の観点から解説している。
ユニークなのは、名目金利−名目成長率を「マジック・ナンバー」と定義し、これがマイナスになったとき住宅バブルが発生し、プラスになると財政破たんの危機が発生するという分析で、実際に主要国のこの数値から、スペイン、アイルランド、ギリシャはマイナスであったことを示している。
そして、世界大恐慌の発生原因の分析と今回の各国の対応の対比である。
すなわち、中央銀行が資金供給を増やすだけではなく、政府の公的資金の投入があって効果が上がることを述べ、さらに小国にあっては、資本逃避を防止するために、最後の貸し手となるようなリーダーの存在が必要としている。
そこで、今回のギリシャ危機にあたって、ドイツこそがそうあるべき立場であるにもかかわらず、財政健全主義を堅持し、支援策を何ら表明せず、リーダーとしての行動をまったくとっていないと批判する。
一方で、リーマンショックの危機に対する各国の中央銀行の積極策を著者は評価する。
特にアメリカの連銀の迅速果敢な対応により、ゴールドマンサックスなど主要金融機関は史上空前の利益をあげるなどいち早く危機を脱したとする。
これに対し、いまだデフレ状態を脱することができず、政策の手足を縛られている日銀。その原因を、あの急激に短期金利を引き上げたバブルつぶしにあるとしている。
わかりやすく面白い。
特に、今回のギリシャ危機の背景を深く読むことができた。
残念ながら本書では、デフレにあえぐ日本への処方せんは明確には書かれてはいないが、参考になりそうな材料がちりばめられている。
推奨
★★★★☆
『資本主義は嫌いですか』に続く竹森教授の啓蒙的著作であるが、内容はなかなか高度である。著者は、「最後の貸し手」としての流動性供給を究極の使命とする中央銀行の役割(これを「バジョット的」と著者は命名している)に対して、経済危機に対する救済的機能など、バジョット的中央銀行の理念型を超えた役割を果たしつつある中央銀行機能に焦点を合わせ、精緻な議論を展開している。ギリシャ危機に対する欧州中央銀行(ECB)の行動が議論の中心であるが、新産業の「成長促進」を標榜して日本銀行が2010年5月に導入を決定した「新貸出制度」などにも言及されている。学生諸君のみならず、金融問題には相応の蓄積ありと自負しておられるビジネスマンが読まれても得るところは極めて大きいだろう。