パーリ仏典の釈尊の教法を理解することが不可欠
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本書の1/3を費やして、中論の説明に入る前に仏教を学ぶ心構えを序章で述べている。
序章のp.53およびp.81〜82では、悟りに至る五つの修行(資糧道・加行道・見道・修道・無学道)が述べられる。「五位」は部派仏教の説一切有部や、大乗仏教の瑜伽唯識学派などで示されたが、定義は極めて曖昧である。しかし、パーリ仏典・律蔵・大品を読めば、「五位」がブッダ釈尊の教法に由来していることが一目瞭然である。ヤサの出家を導いた釈尊の説法を五位に対応させたものを下記する。
<第一段階:凡夫の修行>
(1)資糧道=因果業報(善因楽果・悪因苦果)の道理である「施・戒・生天の三論」を理解する凡夫。
施とは施与慈善であり、正語(道徳も最初は言葉で言い聞かされて学ぶ)から始まる。戒とは戒律道徳であり、正業(生物を殺傷せず、他の金銭財物を盗まず、嘘をつかず、邪な姦淫を犯さず、というような戒律を守り、常に道徳的な生活を続けること)を心がける。生天とは、幸福な天国に生まれる生き方であり、正命を心がける。八正道の三つは、資糧道の凡夫の修行なのである。
<第二段階:凡夫の修行>
(2)加行道=因果の道理を正しく信ずる資料道に続いて「欲の禍患と離欲の功徳」を理解する凡夫。
自己中心的な「我見」を離れることが加行道の凡夫の修行である。
<第三段階:ここから三十七菩提分法が始まり、八正道の五つが実践される聖者の修行>
(3)見道=須陀オン:三結(身見、疑惑、戒取)の断に成功した第一段階の聖者。
この段階は、苦集滅道の四諦の教えを理論的に理解して「遠塵離垢の法眼」を得た瞬間に始まる。
(4)修道=斯陀含(一来)+阿那含(不還)
斯陀含:三結の断と二結(欲貪、瞋恚)の弱に成功した第二段階の聖者。
阿那含:五下分結(身見、疑惑、戒取、欲貪、瞋恚)の断に成功した第三段階の聖者。
(5)無学道=阿羅漢:五上分結(色貪、無色貪、我慢、掉挙、無明)の断に成功した最終段階の聖者。
これと同様、『中論』の理解にもパーリ仏典の釈尊の教法を理解が不可欠である。