著者の行動力に感心する
★★★★☆
1987年の発行だから、ちょうど20年前の本。当時、著者は岡山大学で英語を教える助教授だった。
ちょっと珍しい言語が専門であれば、研究上のフィールドワークとして、その言語が実際に使われている土地に長期に渡って滞在することも多いだろうが、英語はそんな言語ではないし、この著者は、研究と言うより、単なる興味で、和製英語がアメリカで通用するか試したようだ。
その対象となった和製英語は、日本で長く、広く使われて、日本人の間に浸透している物ばかり。表現が英語圏で一般的でないものと、異なる意味を持つものを対象としている。例えば、
ミックスサンドイッチ、ベッドタウン、フェミニスト、ボストン・バッグ、アフターサービス、ミッション・スクール、ゴール・イン、OB
などである。(『「ドライ」な性格/「ウェット」な性格』もあるのだが、これらはそれらほど使われているとは感じない)
現在では類書も多くあり、ちょっと興味を持つ方なら、これらが和製英語だとご存知だろうが、単に和製英語だと指摘するのではなく、アメリカで通用するものか試した著者は少ないのではないか。特に「ボストン・バッグ」がボストンで通用するか尋ねるのは痛快である。(結果は、現代ではほとんど通用しない古い表現らしいと判る)
読みものとして楽しめるのは、親切な回答者が一生懸命に考えても、著者にヒントをもらっても、なかなか日本での意味、用法にたどり着かないところで、回答者の反応も面白く、一気に読めた。(「アフターサービス」の意味を答えられたのは、現役サービスマンだった。研中6/7版でservicemanを引くと、「アフターサービスの」と書かれているが、これは誤解の元)
ただ、ひとつの語について、10人前後にしか尋ねておらず、また、場所も空港や大学が中心で、回答者が高等教育を受けている方々に偏っており、統計的に充分な水準とはいえない。著者自身も後書きで、後半は回答してもらえる確立の高いインテリ風の男性ばかりに尋ねてしまったと書いているほどだ。
余談だが、辞書に語や用例を載せる際に、使用頻度を具体的な数字で載せると、文法・意味的に間違っていなくてもほとんど通用しない語が一目瞭然で、初学者に有用だと書かれているが、それでは複雑すぎるだろう。通常の学習辞書は重要度の順に記載されているわけだし、必要に応じて、「〜は和製英語、英語では〜」とか、「〜世紀頃、〜で使われた表現。現在では〜」などと注意書きがあれば充分だと思う。