5つの事件を解決するのは、木崎という名のさえない中年刑事。まるでオカルト趣味のない彼も、初めの事件でアパートの幽霊をこの目で見てしまった以上、もはや疑うわけにもいかなくなる。しかし宝石泥棒の犯人を幽霊と推定するも、実体のない幽霊はものをつかむことができず、犯人とはなり得ない。では犯人は誰なのか?
出色は「雨月夜」。男が夜分に後ろからすりこぎで頭を殴られケガをする、という事件が起き、被害者に婚約者を奪われた過去を持つ男性に嫌疑がかかる。彼にはアリバイがあったが、同時に彼には、寝ている間に魂が抜け出し生霊となって町を徘徊する、という癖があることも判明する…。
謎解きのおもしろさも相当なものだが、オカルティックなモチーフの多用にもかかわらず、いやむしろそれゆえに、現代の人間の内面のリアルな反映に成功していることには何より驚かされる。そして黒沢清のホラー映画にも似た、いわゆるおどろおどろしいオカルトとは正反対の静謐(せいひつ)さを、この小説は感じさせてくれる。(岡田工猿)
強烈な悪意、またサイコパスと呼ばれるような人物が
引き起こす事件を扱ったミステリが増えている中
優しい気持ちや善意が中心に描かれていますので、
なんだかホッとさせられます。