チベットの混乱
★★★★☆
1958年に毎日新聞社から出た単行本の文庫化。
かなりの加筆がなされている。
著者は第二次大戦末期に、スパイ活動のためチベットに入った人物。しかし、まもなく敗戦となってしまい、その後はチベットとインドを往復しながら困窮生活を送ることとなってしまった。自首して政治犯として刑に服したあと、昭和25年に帰国している。
本書は、昭和18年末、モンゴルからチベットへ向かうシーンから始まっている。ラマ僧に変装して、モンゴル人に混じっての旅であった。危険と緊張のなか、チベットへと潜入していく。描写としては、このあたりがもっとも面白い。旅行記としても魅力がある。
その後はチベットとインドでの生活。中国共産党が侵略してくる直前の時期に当たり、政局も緊迫している。そのなかでチベットの生活や人々の様子が記録されており、貴重な内容だろう。
1950年以前のチベットの政治と宗教の実情を知ることが出来る。