流刑以降の主人公の性格が、行動にほとんど反映されていないような。
「かけた椀」
飢饉続きで食料のなくなった村を捨てた夫婦が、食べ物を得るために海を目指すが、その途中妻は息絶える。
人肉を食ったという男が簀巻きにされ、首に石をつけられて、川に捨てられるシーンが生々しい。
「梅の刺青」
江戸時代後期から近代にかけての日本の解剖の歴史。
小石川療養所で死にかけた梅毒患者が、葬式を挙げてくれることを目当てに死体解剖を依願する話は痛ましい。
貧困のため、野辺にさらされ獣の餌になるしかない年寄り。
遊女であったため当時の習慣に従い、死んだら寺の穴に投げ込まれるはずの女。
3作の雰囲気が異なるのは、作品が出来た年の影響もあるのだろう。
「かけた椀」は昭和59年、他2作品は平成11年である。
著者の作品には一環して「何かに挑む」主人公が登場するが、著者が年経るに従って主人公の
「理不尽に抵抗する力」が削げて、流されるに似た諦念が染みてくる。