吉村作品らしい終盤の予想外の展開に唖然とさせられる。
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テレビで放送されるアメリカ映画の場合、最初の30分を見ただけでクライマックスの展開やラストのハッピーエンディングの場面までほぼ予想することができる。映画脚本の王道みたいなストーリーが定着しているので観客は筋書き通りの展開に満足することができるが、それ以上の感動や意外性のある展開を期待することができない。全ての観客にとって100点満点中70点の無難な点数をとれれば合格で、特定の人には100点だったり20点だったりする賛否両論がはっきり分かれるような映画はリスクが高くてスポンサーは敬遠する。
吉村昭の小説はどうか?前半を読み終えた段階で「ラストはこんな感じで終わるんだろうな」と思っていたら、残り20ページというあたりから意外な急展開が待っていて、それまでのばらばらに進行していた各人のストーリーがひとつにまとまっていく。「こんな取り返しのつかないことをしてしまっていいの」と偶然性と運の悪さに同情させられる。
吉村作品にとってこのような展開はよくあることで、小説を読みなれた人でも最後の結末は予想できない。経験の浅い小説家には到達できない人間観察力と洞察力、そしてじわじわと登場人物を追い詰めていくような徐々に高まる緊迫感の持たせ方が巧い。吉村作品の中で突出した傑作でも有名な作品でもないが、一読する価値はあると思う。