「宇宙の死者」ではSF的なアイデアがビジネスで運用されているという背景のうえで、超常現象を扱っており今でも斬新な感じがする。
「聖なる争い」この作品が一番好きだ。読んでいて、作中人物同様なかなか謎が分からなかった。一種のミステリとして楽しめる人間とコンピュータの心理劇と言えるだろう。
「カンタータ140番」はじめの2作に登場する人物が出てくる、続編というか連作である。個人の欲望を制御できなくなった未来社会の様子と、その中でも過去と同じ個人の愛憎が繰り広げられるという現実的な話だ。結末を改変した長編があるそうで、是非読みたいところ。
「シビュラの目」タイトル作である。異質な作品だ。過去と未来が呼応する不思議な作品。
それにしても、ディックの作品集は常に満足を与えてくれる。それはテクノロジーやプロットに頼ることなく、人間の葛藤を描いているからだろうか。優れたSF的発想に負けない描写というのが彼の持ち味だと思う。