作者の人柄、暖かさの伝わる
★★★★★
とっても悲惨な内容の話なのに読後に残るこの暖かさはは何なのでしょうか?
作者の人柄のよさ、やさしさ、人間の豊かさが伝わってくる一冊でした。
人間のおかした戦争によって傷つけられた人々、老いによって追いやられた人々、問題や事故をなくし、清潔に機能的にする事に精一杯で(予算不足、人手不足でそれすらむずかしい場合もあるでしょうが・・・)一人一人の人間性や気持ちにまで気持ちを向ける余裕のない介護や医療の現場などやりきれない現状。
国や民族は違えども、一人一人の思いや、心のよりどころとなる家族、友人、各々の持つ歴史や思い出、ささやかな暮らしの大切さに違いはないはず。
そして、それらを無くしたことによって分かる痛みというのがあると思います。
そうした事に心を痛めたであろう作者が精一杯の愛情と思いを込めて書かれた物語なのではないかと思います。
ハッピーエンドには、ほど遠い結末をみても決して夢物語のファンタジーに逃げる事無く立ち向かう作者の強さに裏付けられたやさしさ。
悲惨な現実に目をそらす事無く、真っ直ぐみつめながらもやっぱり大事なのは人と人の思いで、そこにはまだ救いと希望があるという事を教えてくれます。
小さな子が愛しい
★★★★☆
(ネタバレあります)リンさんに対するバルクさんの眼差しは何と暖かいのでしょう。
小さな子にピンクのベビードレスをプレゼントしたことが、その優しさの象徴だと思いました。
小さな子を連れてのリンさん、おむつやミルクのこととか、不快で泣き出したりしないのかと、読んでいて心配していました。
流れるような文章で読んでいて心地よいです。
読んでいて何となく感じていた違和感は、最後に明かされます。
そうだったのか。でもそれではあまりにもリンさんが可哀そう。読み終わって本を閉じてからもショックでしばらくリンさんと小さな子のことが頭を離れませんでした。
珠玉の短編
★★★★★
文字通り珠玉の短編と思います。何人かの方が子供にも薦めておられますが同感です。いずれ教科書に採用されてもおかしくはないのではないでしょうか。
文章は淡々として平易であり、無謀なレトリックは影を潜めています。文体が、そのまま思考の流れと登場する人々の平凡だが確実な善意を表現しているようです。作家がこれを意図していることは明らかです。
本書を読み終えた後、「灰色の魂」の時もそうだったのですが、思わず書物そのものを両手で掬い重みを測りました。牡丹の花弁のように豊かな質感を感じることができました。
リンさんのような人に出会ったら
★★★★★
あれ?なにかおかしいぞと思っていた事が、終り頃になってようやく解りました。
そして、最初から読み返してみて、前より強く訴えるものがありました。
リンさんのような人に出会ったら、自分は、どうするだろう・・・・・
静かに流れる情景
★★★★★
とても静かで悲しみに溢れ、でも幸せにも溢れた物語。
戦争という悲しみに巻き込まれたリンさんと小さな子。
見知らぬ国の見知らぬ土地に難民としてたどりつく。
思い出すのは昔の幸せだった頃の既に戦争で廃墟
にされた村の風景。でも手元には息子夫婦が残した
小さな子がいるので死ぬ訳にはいかない。
そんな中言葉も通じ合わないけど知り合ったその国の男。
その男とリンさんとの交流。
静かに物語は進行していく。
最後までもしかして?と思っていたけどやはりそうだった。
辛いけど、悲しいけど、でもリンさんにとっては
そうやって思わなければ現実を受け止められなかったんだろう。
戦争の詳しい描写を書かなくても、ひしひしと伝わってくる
戦争の残す現実。
簡単に読めてしまうので、たくさんの人に手にとってほしい本。