ベテランが軽々と吹いた傑作
★★★★★
「テーク・ファイヴ」の作曲者として有名なアルトサックス奏者ポール・デスモンドの音楽は聴きやすいためか、なんとなく軽んじられている。デイブ・ブルーベックとのコンビが長く、テーク・ファイブがあまりにも有名になったためと、スタンダード・ナンバーを演奏する機会が多いのも、軽く見られる原因かも知れない。しかし、くぐもったような、しっとりした暖かい音色でもスタンダード曲を軽々と吹くデスモンドは魅力に溢れている。なにより、疲れた時、落ち込んでいる時に聴いても、コルトレーンの音楽のように、暗い気持ちにならない。そこがいい。(ある人にとってはそこが食い足りないのだろうが・・・)。RCAからA&Mに移籍し、名プロデューサーのクリード・テイラーと何枚ものアルバムを残しているが、ベストはやはりこれだろう。表題曲サマータイム以外に「いつか王子様が」「枯葉」などのスタンダードに加え、「過去を求めて」などの珍しい曲や、ビートルズナンバーにも挑戦。ハービー・ハンコック、ロン・カーター、アイアートなどの豪華なサイドメンももちろんいい。熟練したベテランがオーケストラをバックに肩の力を抜いて軽々と吹いた傑作。いつまでも聴き飽きない。(松本敏之)