チョムスキーの論文以外のものは初めてでした。
★★★★★
チョムスキーが、こういうものを書いているのを知りませんでした。
もっぱら言語理論だけの論文を読んでいた。
コンピュータ科学のメッカ、マサチューセッツ工科大学(MIT)。
生成文法理論を提唱する言語学者。
ということしか知らなかった自分が恥ずかしい。
悪の帝国
★★★★☆
アメリカは果して民主主義国家か? YesでありNoでもあると思う。何年か前の雑誌の記事にあったが、アメリカが中国の人権問題や言論の自由度、司法制度を批判した時、中国は怒って反証した。全てを正確には覚えていないが、例を揚げると、アメリカは自由な選挙を標榜しているが、候補者は資金集めがうまく、従って大企業の支持を得やすい者しか選ばれない。裁判官の大多数はWASPのエリート男性だ(映画ではよく黒人や女性の裁判官が出てくるが、あれは珍しいらしい)。メディアはコントロールされている。中国を批判できるほど民主国家ではない、というものだ。
チョムスキー教授の発言も実は本国アメリカでは大手メディアではほとんど掲載を拒否されている。その理由は本書を読めばわかるが、「自由の国」の現状はこんなものだ。
そしてわれわれ日本もその外交政策や防衛についてアメリカにコントロールされているが、いつまでもそれでいいのかという気にさせられる。北朝鮮はともかく、フセイン政権下のイラクや、イランが本当に悪の枢軸なのか。教授の言う、「エネルギーの産地に軍事基地を置き、傀儡国家を構築して支配する」戦略は正に悪の帝国そのものだ。そして、先住民を追い出しあるいは殺して築いた人工国家という共通点を持つイスラエルへの肩入れが、中近東地域を不安定化し、テロリストを増やしている。まるで映画「グッド・シェパード」に描かれた世界そのものが、本書ではいちいち論拠を挙げて述べられている。
しかし、インターネットがこれだけ普及し、情報のスピードが速まった現代では全ての言論を封殺することなど不可能だ。反動的国家でも、やがては民衆の力で政権が交代することになるだろう。そしてその時はお節介な大国が(アメリカ国民自身の反対によって)邪魔しないことを願う。
新しい発見はない?
★★★☆☆
この本を読もうと思う人なら多分知っている内容です、ぶっちゃけ。皆が知っている事実に数字的な根拠を与えてるだけです。
内容は良い、しかし翻訳が…
★★★★★
チョムスキーの著作においてもたびたび話題になることだが、
翻訳本が出版されるたびにその翻訳の出来が問われる。
確かにチョムスキーの文章は難解な語彙が使われる上に、一文一文が長いのが特徴だ。
(故に、英語の文章として深みが出ているのだが)
今作「お節介なアメリカ」原題:Interventionsはニューヨークタイムスのエッセイを
集めたものである。新聞での連載故に英文もさほど難解ではない。
しかし、誤訳や超訳とも取れるものが多い。
一番初めの見出し「Lessons unlearned」を「忘れられた教訓」と訳すのはどうか?
learn one's lessonの派生として考えると「生かされなかった教訓」ぐらいにするといいと思う。
Interventionという英単語にたいして「お節介」というのはいくらなんでも飛び越えすぎだとも思う。
アメリカ社会の病巣の深さ
★★★★☆
驚いた。私はソフトウェア開発を生業とし、特にコンパイラを専門としているので、生成文法を初めとする言語理論の大御所としてのチョムスキーしか知らなかったのだ。それが政治評論も書いていたとは(それも沢山)。しかし、本書の内容は大方の日本人も感じている事ではないだろうか。
世界最大のテロ国家アメリカ。"世界の警察"を自称して、文字通り世界各地に「お節介」をやくアメリカ。それも、実は自国の利益を重視した功利的なやり方で。更にアメリカの論理をグローバル・スタンダードとして他国に押し付ける傲慢さ。本書によれば、アメリカ内でもこうした政策の支持率は極めて低くなっていると言う。こうした意見がアメリカ人自身から出される所に著者の良心を感じると共に、アメリカ社会の病巣の深さを感じる。
翻って、アメリカの政策に追随している日本はどうなのであろうか。そんな問いかけをされているような気がする啓蒙の書。