実は革新的な内容
★★★★☆
アメリカ憲法学に染まっている(毒されている?)日本の憲法学に対して、ドイツ憲法学からの示唆に基づいて、日本の憲法判例を整理・分析したものです。
コンパクトで、非常にわかりやすいです。最近では、ドイツ憲法学における論証パターンに基づく判例分析を行う研究者も多く、本書はその一つです。
憲法の従来の芦部憲法のような教科書では、とにかく違憲審査基準が最も重要で、特に手段審査でかたをつける考え方が多いですが、本書の論証図式である
基本権ドグマ−ティックは、保護範囲→侵害→正当化という三段階を踏んで、憲法判断をするものです。従来の違憲審査基準論は、正当化の段階で登場しま
すが、この論証図式では、そもそもある国家行為について、憲法が保障する権利に基づき、それが保護範囲に入るのか、がまず問題となり、従って、本書で
も、憲法上の権利の解釈にも重点が置かれています。
本書の特徴は、精神的自由権以外、とくに社会権や法の下の平等に関して、アメリカ憲法学的な発想とは大きく異なった考え方を採用しています。
例えば、社会権では、法律によって憲法上の権利が保障される、と考えていたり、また、財産権では、制度的保障論ではなく、法制度保障といったドイツの
概念に基づいて分析されています。
司法試験で、芦部的な憲法学以外の考え方を用いるのがいいかは分かりませんが、本書は非常にわかりやすく、憲法を深く理解できると思います。論証パターン
(憲法判断の考え方)が明確であり、試験の答案に向いているでしょう。また、憲法にそれほど詳しくない方での、学部程度の多少の知識があれば、本書を理
解できると思います。
司法試験・憲法論文答案作成のトリセツ
★★★★★
「憲法上の権利」の作法という少し堅苦しいタイトルですが,ようするに司法試験受験生のための憲法論文答案作成のトリセツです。
しかし,いわゆる予備校の教える「人権パターン」というような安易なトリセツではありません。ドイツ憲法学における三段階審査の考え方を中心として,憲法問題の考え方を体系的に整理している良書ですし,理論的にも最先端の問題にも触れられています。
司法試験の憲法科目は,基本書や判例の知識・理解と答案作成の「あいだ」を埋めるのが大変です。憲法の得意な受験生は,無意識あるいは意識的に憲法問題の考え方を体系的に整理していたものと思われますが,憲法を苦手とする受験生には,本書が導きの糸を与えてくれるのではないでしょうか。
本書では自由権の制約に関する違憲審査の方法について詳しく論じられていますが,平等権の制約の場合の違憲審査基準(目的・手段審査)の適用には,自由権の場合とやや異なる部分があるように思いますので,私としてはその点についてもう一歩説明が頂けると良かったように思いました。また,受験生が頭を悩ませるであろう法令違憲と適用違憲の関係についても整理してもらえると良いですね。本書が好評を博して増補されることを期待いたします。
ともあれ,司法試験受験生にとっては,これまでに類書のない価値ある1冊ではないかと思います。