これから企業研修などのための教材作成に取り組もうという人におすすめしたいのが本書。初めて独学で教材づくりにチャレンジする人を想定し、教材のイメージづくりから教材の作成、改善までを、アメリカの教育工学実践の中核となっているインストラクショナルデザイン(以下「ID」=さまざまな環境で最適な効果を上げる教育方法の設計)の考え方に基づき解説している。
本書は10章で構成される。1から2章は「独学を支援する教材」のイメージをつかむ導入部で、3から4章はテストの役割、作成方法を説く。5から7章はプリント教材の設計、作成方法を解説。8から9章では実際に教材を試用し、改善する方法を示している。10章は本書の「まとめ」に相当し、独学を支援する教材の意義や教えることの意味などについて述べている。各章とも、冒頭に「学習目標」を箇条書きで掲げたうえで、「背景」、その章の「キーワード」、「事例」、「章のまとめ」を簡潔明瞭に記述。内容が理解できたかを確認するための「練習」と「フィードバック」も掲載しており、かなり丁寧なつくりになっている。また、「釣り入門」の教材づくりを「事例」に取り上げるなど、親しみがわく配慮がなされている点もうれしい。
インターネットを活用したeラーニングの普及に伴い、IDはeラーニングを効果的に実施していくための手法として注目されている。それだけに、研修を受ける人も本書でIDの基本的な考え方を知っておくことは有益ではないか。(清水英孝)
分かりやすい記述でインストラクショナルデザインの概要が理解できます
★★★★★
講義式の講習・研修ではなく、自らが学ぶ『教材』の作成方法を、人がどのように学ぶのかから初めて、その学びを支援する教材をどのように作成するべきかを、分かりやすい例題を交えて説明しています。
初めてインストラクショナルデザインの考えにを学び、それに基づく教材を作成してみようと考える人にお勧めです。
特に最後についている『資料』がおまけでなく、教材作成を実施するうえでのチェックリストとしてすぐに役立つ程度に充実しています。
当たり前のことが書いてある…。
★★☆☆☆
「インストラクショナル・デザイン」とカタカナで書かれると、何だかものすごいことが書いてあるような印象を受けましたが、読んでみたら資料作成の基本が書いてありました。
会社の新入社員研修でやっているような内容で、だいたい入社3〜5年目くらいまでにマスターすべき内容と思います。
企業だと「業務手順書」とか「マニュアル」というのがたくさんあります。
これらは「初めての人でも、その通りにやればうまくいく」ように作られていますが、そうしたドキュメント類を作成するための入門書といった印象です。
ビジネスマン向けには本書より優れた類書がいくつも出版されていますが、本書を読んで特に印象に残った点は以下の3点です。
(1)完全学習は非現実的
「時間をかければ、誰でも物事を習得できる」という考え方は、やや無理があると思います。
誰でもその人の持つ身体的・知的レベルがあり、時間をかけても習得できないものは習得できないと思います。
だからこそ「自分の強みを生かす」という教育論が大切になってくるのだと考えます。
また、そもそも何事も時間の制約の中で行う必要があることは忘れてはならないと感じます。
(2)面白さをどう作りこむのか?
教育学を学んだ人はご存知と思いますが、物事を習得するにはいろいろなアプローチがあります。
そんななかで、IDのような合理的で積み上げ式の教育方法の欠点は「面白さ」が感じられないことです。
面白くないものは、誰も真剣に使わなくなります。
たとえば学校で使う数学の教科書など、内容的にはきわめて合理的に構成されているものの、きわめて面白くない教材の一例です。
(3)学習課題の指導方略
そうした意味で、本書で唯一目を引いたのが、87ページの「学習課題の種類と指導方略」と178ページの「ARCSモデルに基づくヒント集」です。
IDの専門家の著書という意味では、こうした内容について、もっと詳しく具体事例とともに紹介してほしいと思います。
たとえば、つまらない数学をとても分かりやすく、面白く解説している書籍は少ないながらあるわけです。こうした事例をIDの観点から分析して紹介すれば、類書と比べて本書の価値がぐっと高まると感じました。
もう少し具体論がほしいです
★★★☆☆
わかりやすい教材をつくる技法を知りたく本書を読みましたが、学術的な話が多く、実際につかえる技術があまり無かったことが残念でした。たとえば、教材をつくる際には、見出しや本文のフォントでメリハリをつけること、書体やレイアウトに配慮することなど、といった点が挙げられていますが、もう少し具体的に、見出しや本文は何%の大きさの差があれば有意な差になるのか等の情報があれば助かると思いました。
わかりやすいし、信用できる。
★★★★☆
この分野の権威である「ガニエ」の著作を
監修して、その主張・枠組み・用語に精通しているにも関わらず、
それに縛られることなく、
自分の言葉で平易に語ってくれている。
さらに、類似書からもその主張が引用されているので、
専門家仲間でも支持されている本なのだと思われる。
ただ、ARCSモデルについては、
著者の恩師(博士課程の教授?)が
発案したモデルのようなので、
その効用は、差し引いて読む必要はある。
「インストラクショナルデザイン―教師のためのルールブック」
と合わせて読めば、
ビジネスパーソンにとっての
教材設計の学習は十分だと思う。
社会人教育への適用には少し遠いのでは?
★★★★☆
小中高の先生向け、タイトル通り教材作成のマニュアルである。
おそらく授業計画の参考にもなるのだろう。
だが「**ができる」という到達点の設定から入ることの利点はわかるのだが、その基準に合格したらそれでおしまいになってしまわないだろうか。もっとも、これは独習教材には過大な要求なのかもしれないが。
大学の講義・企業研修も視野に入っているのだが、それらに適用するにはもっと抽象度の高い例を引いて欲しかった。著者が第10章でいう、「自立した学び手」である社会人・大学生に対しての独習教材が本書で解説される答えのある閉じた内容のものばかりではどうも物足りない。
このような感想を抱くのは教材を作ろうとする側の整理が足りないからだ、と言われるかもしれないが。
大人の使い方としては、課題の整理のために独習教材の作製をシミュレートするという方法はあり得るだろう。
最後の第10章には著者の思いが描かれ同意するところも多いのだが、その思想が全体に反映されているかは少々疑問である。