主人公の少女、春永の悩みがそれでした。
祈祷師の家に生まれた春永には血のつながった家族がいませんでした。
おとうさん、おかあさん、4つ年上の和花ちゃんも、
春永とは血のつながりがない。春永自身のお母さんはもう小さい頃に
家を出てしまって、顔も知らないのです。
祈祷師であるおかあさんの血を受け継いでいないということは、
春永にとっては、祈祷師としての力を受け継いでいないことと同義。
他のものはみなそれらしき力があるのに、自分だけがない。
自分だけがこの家族のなかで浮いてしまっている…
思春期特有の悩み、ともいえるものですが、
この少女の場合、祈祷師の家という特殊な環境にいたことに寄るものです。
その孤独感、どうにかして役に立ちたいという願い、等などを
学校の友達関係、家族との関係を通して、生き生きと描き出しています。
最後に春永が得た結論は、思わずホッとするような、気持ちが暖かくなるようなものでした。
主人公の気持ちが自然と伝わってくるようないい文章でした。
挿し絵の版画もいい味だしてます。