執筆している本からすれば
★★★★★
執筆している書籍からすれば、金子勝は経済学者ではなく、政治評論家だろう。
金融資本主義は、現物経済を統制できないことは周知の、かつ、衆知の事実である。
金融資本主義に「ゆくえ」はない。
タイトルは、著者の、ないものの強請りなのだろうか。
わかりやすい。
★★★★☆
竹中さんはその理論がぶれるというか、とにかく過去の発言と最近の発言が同意なのか変化なのかがわかりにくいのである。
その点、金子さんの理論はブレがなくてわかりやすい。
もちろん、どちらが正しいのかなんてことは理解できないが、少なくとも金子さんはブレていない。
代案がないのは下記のレビューのとおり。代案は金子さん含め誰も思いつかないのだろう。
だからといって政府の失敗に対して批判批評をする立場の人はいつの時代でも必要だろう。
金子さんへ政治を任せてもたぶん失敗するか何もできないだろう。
しかし、失敗してその検証をできていない人への批評をする役割は誰かがやらねばならないのである。
金子か竹中かではない。
竹中が自己正当化し国民を煙に巻こうとしていることに対して攻撃する役割として金子氏の存在は必要である。
ただし、次の政策を担うのは金子でも竹中でもないのであろう。
竹中・金子は次の経済政策を担う誰かを批判的に監視する仕事をすればよい。
その批判監視のもとで誰かが新しく何かを行うのであろう。
批判屋の限界
★☆☆☆☆
昨今のドサクサに紛れて「何でも小泉・竹中構造改革のせいにすれば良い」という不毛な本である。
前段の「既に起こった事」に対する筆致の勢いはあるが、肝心の「だからどうすれば良いの」には全く答えられていない。昨年秋以降、雨後のタケノコの如く書店に表れた不況本に良くあるパターンだ。小泉嫌いの人の溜飲は下げるだろうが、建設的な事は何も書かれていない。
それに欧米の最新の経済学からすると、内容はかなり遅れている。そもそも新自由主義と市場原理主義を完全に混同しているのが致命的。
更に竹中を「主流派」、自分を「異端児」などと言っているが、その区分けも全く根拠がない。読む人が読めば、いわゆる「トンデモ本」的な扱いをする可能性もある。
経済についての本を読む時は
「経済学における真理は、一般大衆の直感的な正義感とは真逆の物である」という前提を知る必要がある。本書のように、「一般大衆が直感的に腑に落ちる」様に書かれている本は怪しいと考えた方が良い。
啓蒙書としては不親切
★★★☆☆
テレビではやたらキャラの立つ金子勝氏もこうやって活字で読むと、インパクトはやや薄れる。
本書では、サブプライム危機を必然的に招いたとされる新自由主義的「主流派」経済政策に対して、やや専門的な経済理論を紹介しながら批判しているのだが、経済学ジャーゴン(専門用語)が説明なしにチラホラ出てくるので、素人の当方としてはどうもいま一つしっくり腑に落ちなくて隔靴掻痒の感を免れない。
「ですます」調の文体はスラスラ読めてしまうのだが、上記の理由により、「分り易い」という印象はない。なんだか適当に丸め込まれたような気もする。竹中平蔵氏に代表される構造改革推進派に対する痛烈な批判は、溜飲の下がる思いもするが、当の竹中氏からテレビで「具体案を出して下さい」と反論されていた。う〜ん、確かに本書でも、茫漠たる理想の国家像として、環境や教育を重視した北欧型社民国家が提案されてはいるんだが、じゃ今現在なされるべき具体的政策(規制、法案など)の提示が無い。
金子先生、次は具体的政策提言書『日本はこうせよ!』なんて本を書いて下さいよ(笑)
生き方の指針になる
★★★★★
現在の日本を覆っている閉塞感はいったいどこから来て、そして日本という社会はこれからどこに向かうのか。そんな漠然とした疑問への答えを求めて本書を手に取ってみた。
その回答が見つかったと思ったのは次のくだりだ
絶えず一歩に二歩先へ行く付加価値の高い製品やサービス、あるいは
新しい産業分野を作り出していかないと、同じような同じような製品を
作って量産を競うようになります。もしそうなったら、中国の人と同じ
賃金水準まで下げていくというような、コストカッター的な発想で競争
するしかなくなる
そして、この問題への処方箋として、次の点を挙げている
建物や道路などへの投資ではなく、教育投資というインフラ投資急ぐべき
しかし、創造性を高める教育は困難であるし、そこには必ず落ちこぼれる人もでてくる。それに対し著者は、社会的なセーフティネットの拡充と同時に、社会自体のあり方や我々の意識にも変化が必要だと説く。
競争が複数存在していて、単一の尺度では評価できないということが重要に
なります。たとえば、優れた農家と立派な医者のどちらが偉いかは比べようが
ない。ある面で比べれば優劣があるけれど、別の面で見ればまた優劣が違って
くる。そういう社会が求められているのだと思います。
我々は自分たちの自身の価値をもう一度見直し、正当に評価して、そこにお金を使う心の持ちようが必要だと私は解釈した。それが内需の拡大につながり、単一的な尺度による一辺倒の競争から逃れる方法ではないかと。
著者は大学でも教鞭を執る経済学者であるから、本書では経済史的な記述も見られ、その部分は一般の読者にはやや退屈かもしれない。しかし、それ以外の部分では、我々の社会の抱える問題の本質と、将来進むべき方向が説得力のある説明で示されていて、とても参考になる。
今の若い人には是非一読してもらいたいと思う。