腑に落ちる市場論
★★★★★
護送船団方式の終了したバブル崩壊後、日本の会社が、銀行や役人に代わって向き合わなくてはならなくなった市場との関係の中で、人件費を削減しながら株主への配当を増やす動きや、ライブドアに始まる敵対的企業買収の動き(珍妙な株主主権論)に違和感を感じていた。これらを批判し、さらに市場機能を否定しないような議論が、これからの日本の社会秩序の原型を作り出す上で、必須になると思っていたが、なかなか見当たらなかった。
著者は「国民主権」という市民社会の基本にまで下り立ったところから、「主権者が株を買っている状況を株主主権」と読み替る。同じ主権者である労働者、さらに消費者を踏まえたステークホルダー論を唱え、それを保障するような市場ルールの法的な整備(要は公正な価格形成)について論じている。これまで市場原理=弱肉強食というイメージをもっていたが、国民主権という市場原理に先立つ原理を忘れかけており、この原理の上での市場論の可能性をみて大いに開眼させられた。
「人間中心の会社観」が熱く語られている
★★★★☆
会社法・資本市場法の専門家である上村教授と信越化学工業の元常務で経理実務の専門家である金児氏の対談が本になったものである。あとがきに書かれているように、上村氏の株式会社理論・資本市場理論が存分に語られた書であり、金児氏はほぼ聞き手に徹している。
上村氏は「経産省主導の新会社法とファイナンス理論会社法」は「堕落」でしかないという。あっという間にカネ主権論に転化してしまう危険性のある株主主権論を、各国ともステークホルダー論と株主主権論という立場を使い分けながら、国家や国民の利益を最大化しようとしているという上村氏の主張は説得力があり、さすがに専門だけあって枚挙にいとまがない。また、「株式がほかの金融商品と明らかに違うのは、企業社会を担う者は誰か、という市民社会の基本構造にかかわる問題と対面しなければならないこと」という主張や、村上ファンドの阪神電鉄買収について、「おカネを借りられたから株を買えたという事実だけで、せいぜい数十人の人間が数十万人の人間を支配できる。こういう構図こそまさに企業と市場と市民社会という観点からいえば、日本人が懸命になって戦わなければならない状況なのです」とする主張は、「株式会社も証券市場も人間のためにある、それも最大多数の人間のためにある、ということに尽きます」というあとがきの主張と首尾一貫している。
一方、上村氏の「人間中心の会社観」や「過度の自由を制御する規律」という考えは、理論あるいは思想としては首尾一貫していても、それを実際にどのように社会に根付かせるという点においては非常に難しいと感じた。これは利害関係者全体の成熟度の問題であって、欧米に遅れて資本市場がスタートした我々は、まだその段階にきていないのかもしれない。
読み物として
★★☆☆☆
この本の評価は難しい。読み物としてはそこそこ評価できる。なぜなら、読者の興味を引き付けるからである。しかし、内容的には突っ込みどころ満載である。まず、実態把握がかなり甘く、間違って解釈している部分が多い。特にファイナンスや会計の領域については、本当に分かっているのか甚だ疑問である。多面的で客観的、かつ洞察力の深い議論をして初めて真の「専門家」と言えるのではないか。その意味ではこの本は「専門家」による本ではないことだけは確かなようだ。
「法学者」と「会計実務家」の放談 −少しアンフェア?
★★☆☆☆
対談者は,会計実務家と法学者で,両名ともその業界では有名人である。2名の対談者ともに,何かにつけて経済学(とくにファイナンス)および会計学にたいする批判をされていた。しかし両名とも,ファイナンスや会計学の最も基本的もしくは古びれた理論のうちのごく一部を,さも全てのあるいは最新の議論のように批判していた点がとても残念であった(同時に,最新の理論に対する理解が不足していることも露呈しているわけだが・・・。もちろん他領域の専門家ではないので仕方ない面もあるが,その割には批判が痛烈である。また,「法と経済学」に対する上村氏の批判も痛烈であったが,そこで批判されていた「仮説」も,最もプリミティブなものしか指摘されていない。)。その他多くの点も,両名にとっての固定的なイメージでものを言っているとしか思えないような批判が多かった(他領域についての理解が不足したままの批判や,具体的な証拠や定量的なデータなどに裏打ちされない断定的な言い切りなどが散見される。)。せっかく良いことも言われているのに,これでは本当に伝えたいことが受容されないのではないかと危惧しました。どうせなら,ファイナンスと会計の学者,上村氏がファイナンス型会社法を誘導したと批判するその立場の法学者,会計士,弁護士などの実務家,および,経営者や証券アナリストなども交えて議論すべきであったかもしれない。これらの人々が,この2人の対談者に言いたいことも山ほどあったであろうから。
道学者の書き物
★☆☆☆☆
評論だったら新聞でたくさん。
おそらく、実態を良く知らないためではないか。