なぜこういった特定の政治的主張を押し付けようとする本がジュニア新書に?
★☆☆☆☆
たしかNEWS23で紹介されていたように思う。一連の「蟻の兵隊」シリーズを演出した背後にはどうも胡散臭い連中がいるようだこれは本書の著者の経歴を見ても明らかだろう。はっきり言えば、ジュニア新書と言う形をとってまで若年層に特定の政治的主張を押し付けようとする相当悪質なプロパガンダ本だバランスを考えるならば 本書とあわせて『僕は八路軍の少年兵だった―中国人民解放軍での十年間』も読むのがいいだろう。日本のポツダム宣言受諾後、八路軍には多くの日本兵が参加しており、また、数千人の日本人医師と看護婦が共産軍に編入されて働いていたこと、朝鮮戦争に参加したこと等々陰気くさい話ばかりの「蟻の兵隊」とは違い面白い話が満載されている本書を読まれて胡散臭さを感じた方は是非一読されたい
多くの問題を提起しているが、映画から独立させたほうがよかったかも・・・
★★★★☆
映画『蟻の兵隊』を見た後に、この本を読みました。終戦後、中国の山西省に残って戦い続けた日本兵が2600人もいたことを、私はこの映画を見るまで知りませんでした。大きな問題だと感じ、もう少し詳しく知りたいと思い、この本を手に取りました。本書を読んだことで、奥村さんの生い立ちなど、映画では触れられていなかったこともわかり、理解が助けられました。
上官の命令に従って中国に残って戦い続けたにも関わらず、日本政府は「志願して勝手に残った」として恩給すら支払わない。その理不尽さに対する無念と、あの戦争は何だったのかと問い続け、当時の自分の行為を振り返り続ける奥村さん。振り返るよりも、忘れてしまったり、正当化してしまったほうがきっと楽だろうに、そうしない奥村さんの姿勢が印象的でした。
奥村さんが実際の戦闘場所を訪れる場面では、中国での反日デモの印象が強かったので、きっと中国の人たちに取り囲まれ、大変なことになるのではないかとひやひやしましたが、中国の人たちの態度がとても冷静で驚きました。まさに互いに銃口を向け合った相手なのに、まるで思い出話でもするような元中国兵、日本軍に暴行された中国人女性の穏やかな表情。中国の人たちに大きなことを教えられたような気がしました。
『蟻の兵隊』は先の戦争について、多くの疑問を投げかけていると思います。あの戦争は何だったのか、戦争とは一体どんなものなのか、人間は戦争でどうなってしまうのか、戦争の記憶が消えていっていいのか、などなど。多くの問題を提起している点で、とても意味のある本だと思います。
ただ、この本は映画に沿って、映画と補完的な形で書かれているので、映画とあわせて読むにはいいと思いますが、本だけ読んだ場合、理解しにくいのではないかと思いました。映画から分離し、奥村さんの体験に絞って書いたほうがよかったのではないかと思い、その理由から、星4つとしました。
本として出来は良いが、読後感がスッキリしない。
★★★☆☆
山西残留事件が部数の多い媒体で取り上げられるのは稀なことだ。映画「蟻の兵隊」の撮影秘話を語るというと、どうしても販促的側面を意識してしまうが、本としての出来は良い。「ジュニア」と銘打って対談形式という手軽そうな体裁をとっていながら、山西残留のあらすじと主人公である奥村氏の半生がしっかりと描かれている。
山西残留は、現役将兵の処遇だけを見ても複雑な事情がある。本書で描かれている「売軍された」「国に裏切られた」というのは奥村氏の言い分に沿った「史実」である。しかしそのスタンスは別として、読み物としてはおもしろく、映画を見たくさせる。ようするに書籍としての作りが良いのだ。出版氷河期が叫ばれ、編集の手間をかけない安っぽい本が氾濫するなかで、やはり老舗ならではの仕事の良さを感じさせる。
ところが読後感がスッキリしない。何ともチグハグな印象を受けるのである。それを最も強く感じさせるのが、奥村氏の心情と、池谷監督の映画制作に対する姿勢だ。
映画「蟻の兵隊」では、奥村氏が体験した戦時中の「刺突訓練」が取り上げられているほか、山西省内で起きたとされる婦女暴行事件の被害女性が出演する。そもそも戦後の山西残留をテーマとしている以上、戦前の出来事を持ち出すのであれば、それなりに説得力のある関連性が描かれていなくてはならない。しかし、部隊も場所も日時も無関係で奥村氏が全く関与していない婦女暴行事件は突出している。筋違いの印象は否めない。そしてその疑問は本書を読んでも解消されない。
結局、映画の筋書きに、「日本軍兵士(=蟻の兵隊)は被害者であったが同時に加害者でもあった」というような論理を押し当てたとしか感じられないのだ。二十年前であれば受け入れられたが、今では時代遅れでいかにも古くさい。
奥村氏は自分にとっての山西残留の史実を公にすることを望み、池谷氏は政治的スタンスにこだわらず、奥村氏の個性をスケールアップして映画にしたかった。だが、映画で充分に表現されたとは言い難い。様々な妥協が消化不良を招いた。本書でその片鱗を窺うことができる。