シーナの番外編「ルームメート」(04年CHARA掲載)
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未読だと思ったら読んでいました(まったく、そそっかしい/苦笑)
雑誌には掲載されましたが、単行本に未収録の作品なので買って良かったです。
「ルームメイト」は扉絵を入れて32ページの作品です。ストーリーは、ロンドンの全寮制の学校が舞台で、ジャーナリストを目指しているラリーは自分の才能に自信を持っていますが、実は新聞部にも相手にされていません。幽霊が出るという噂がある廃屋同然の旧寮を取材して、幽霊記事をものにすれば新聞部の記事に採用されるかもしれないとの友人の口車にのせられたラリーは、1人廃屋同然の旧寮に入寮するのですが…。
シーナがメインというよりラリーかな?って感じです。シーナがずいぶん大人っぽくなってしまって、ビックリしました。けれど、懐かしい友達に久しぶりに逢えたような嬉しさがありました。作家の方には描きたい作品を描いていただきたいと思いますが、やっぱりシーナの寮生活のコミックが読みたいです。顔も「ルームメート」より少年っぽくして、転校してくるところから。
「ホライズン」は、若き日のナサニエルと、トラウマを抱えているジョナサンという少年のストーリーで、舞台は神学校です。この作品は本当に、胸が痛くなるというか、こどもにとって幼少期、そしてこども時代が、どれだけ大切なものかを教えてくれる、また、こどもは生まれる国と親を選べません。今、大人だって老人であろうとも、すべての人間には「こどもであった時代」があったのです。どうしてこんな事が平気でできるのでしょう?某男性作家の「どうかその汚い手で僕たちにさわらないで」という文章を思い出しました。なお、この作品は「ミスター・シーナ〜」の短編5つと同じ位のボリュームがあります。本当に読んでいて、ジョナサンにはあのラストしかなかったのでしょうか?ナサニエルがいても、読後感はたまらない気持ちになりました。
今回のこの新装版が出版されたことで、「ミスター・シーナの精霊日記」が統一性を持った本になったことは、とても嬉しかったです。
本当に大切にしたい名作です
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藤たまきさんの作品はどれも素晴らしくて大好きですが、『ミスター・シーナの精霊日記』は藤たまきさんの代表作の一つだと思っています。
全4巻の旧版も持っているし、新装版はどうしようかなぁ…と思ってはいましたが、やはり買ってしまいました。旧版を持っているとは言っても、この素敵な物語を買い逃すのがもったいなくって。
最終巻となる新装版3巻には、ナサニエル神父の神学校時代のお話である「ホライズン」と、単行本未収録作品「ルームメイト」も収録されています。
「ホライズン」も収録だと知ったとき、私はためらいました。ためらったのは、『ホライズン』も単行本を既に持っているからもういらない、という意味ではありません。『ホライズン』は、藤たまきさんの本の中でも特に大切な大切なものです。でも、一言で素晴らしいとか大好きとか言い表せるものではなく、本当に美しくて、切なくて、苦しくて…読み返すのがこわいくらいに心に響く作品だからです。こんな作品にはもう二度と出会えないだろうし、藤たまきさんしか生めない作品だと思います。本当に、胸がぎゅうっと引き絞られるようで、本当に大切で大好きだけれど、読み返すのは恐い。この感覚は、たぶんこの作品を読んだ人には通じる感覚だと思いますが、うまく言葉では言い表せません。本当に素晴らしいけれど、本当に切なくて苦しくて、でも本当に、美しい。ご本人も気に入っていらっしゃるようですが、「ホライズン」というタイトルがこの切なさと美しさを象徴しています。
さて、単行本未収録の「ルームメイト」は、その後のシーナのお話です。本編の最終回は「いっそ全寮制の学校に入っちゃうってのはどうだろう」というシーナのモノローグで、みんなが新しい未来に向けて進み始めるところで終わっていましたが、まさにその「全寮制の学校」でのお話。ロンドンの学校に入り、ちょっと大人になったシーナは、よりいっそうシャープになっていて、怜悧な印象を受けました。
物語はラリーという文筆家志望の少年の視点で進んでいきますが、心霊現象の関係で、ついにシーナ登場!
大人っぽくなったシーナに一瞬、「シーナ!?」と半信半疑でした。私の知っているシーナよりも大人っぽくて、クールで、格好良くて…。かつての可愛らしさのあった少年のシーナとは違った雰囲気に戸惑いながらも、でもときめいて、ドキドキしました。幼馴染の少年が、しばらく会わないうちに大人っぽくなっていたことにドキリとするような感覚です。でも、ナサニエル神父が登場すると子どもっぽい顔にも戻ったりもして。シーナはこうやって大人になっていっているのだろうなぁと思えて、嬉しかったです。前よりだいぶ格好良くなったけれど、根っこが純真なシーナの「その後」が見られて、感激しました。登場人物たちもみんな、相変わらず、『ミスター・シーナ…』に出てくる人(や精霊たち)は愛しいものばかりです。
『ミスター・シーナの精霊日記』は、精霊たちという人間ではないものも描くことによって、かえって、優しいけれど時に残酷で、美しいけれどこわくもある、人間というものを感じさせてくれる作品です。それなのに息苦しさは不思議と感じず、イギリスの自然や光がいっぱいにつまった素晴らしい透明感とシーナたちの存在の美しさで、気持ちの良い素敵な読後感をくれる名作です。こんなにすばらしい作品なのだから、もっと広く読まれるといいな、と思っていましたので、新装版が出てとても嬉しいです。
懐かしい光溢れる世界・・・清らかなもの、美しいもの・・・そして愛するということ
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この巻には、「ミスター・シーナの精霊日記」Passage17〜21、ナサニエルの神学校時代を描いた「ホライズン」、シーナのその後を描いた番外編「ルームメイト」が収録されています。
「ミスター・シーナの精霊日記」のほうは、キーツの馬鹿真面目で不器用なシーナへの純愛(?)に吹き出したり、シーナママの強さやそれぞれの新しい出発など・・・希望を感じることが出来ました。
「ホライズン」は、新装版2巻に収録されていた「風の便り」「エリュシオン」に登場していたジョナサンとナサニエルの神学校時代のお話になります。こちらはかなりシリアスで・・・読んでいてジョナサンとナサニエルのお互いを想う気持ちが理解できるので、本当に心がギュっとつかまれたような痛みを覚えました。
特に私の印象に残ったのは、ナサニエルが旅行に行く前に最後にジョナサンに愛を伝えるシーンです。繊細な藤さんの絵で、緑と吹き抜ける風も感じられるようでした。
番外編の「ルームメイト」ではちょっと大人になったシーナを見ることが出来て嬉しかったです。
ファンとしては、ぜひもっとシーナの学園生活を読みたいですね!
この一連の作品を読んで、私には緑と光さす静謐なイメージが残りました。・・・あたたかいもの、キレイなもの、なつかしいもの、清らかなもの、汚いもの・・・様々な感情に触れ、そしてジョナサンのお父さんの手紙を読んで「愛するということ」について深く考えさせられました。