スピード感溢れる力演です
★★★★☆
聞きなれた巨匠の演奏を大型高級のセダンに例えれば、このCDはスポーツカーのような印象です。
有名な第1楽章はスピード感と音の切れ込みが鋭く、装飾音やオーケストラ左右の掛け合い、緩急のアクセルワーク、音の移動を上手くコントロールしています。まるでスポーツカーを乗りこなしているようなオーケストラのドライブです。そこに新鮮味を感じ3楽章までは調子良く進んでゆきます、しかし4楽章に入るところで期待していたエネルギーを感じずあっさりと楽章移行してしまいました。相対的に4楽章目はやや息切れ状態で平坦な感じが惜しいですね。
全体に音質は滑らかで綺麗ですが重低音を効かせていないためか押し出し感、粘りは今ひとつ。
分離も良いのですがたまに中抜けの傾向が有ります。
あまりに有名なこの曲はどうしても巨匠たちの演奏が模範解答の様に印象に残っているためオリジナリティを出すのは至難の業なのでしょう。
でも2枚目3枚目の運命を購入する方にはお勧めの一枚です。
BGMやヒーリングとしてのみクラシックを聞く方も楽しめる「運命」
★★★★★
クラシックの定番として,あまりにも有名なベートーベンの第5番「運命」。その出だしは小学生でも知っている。一方で,(クラシック通ではない)一般の日本人で,第4楽章の最後まで聞き通したことのある人は,一体何割くらいだろうか?
かくいう私も,モーツアルトやバロックは幾つかCDを持っているが,「交響曲は,ちょっと。。特にベートーベンは。。。」と思っていた。ところが,数ヶ月前の新聞の書評で,異なる二名の音楽評論家が同時にこのCDを絶賛していたので,「騙された」と思って,早速注文してみた。「どうせ,第1楽章の途中で聞くのを止めてしまうだろう」と思いながら。
聞いてみて,脳幹がシビレタ。それまで聞いていた「運命」(ちなみに私のはカラヤン)とは全くの別物だった。面白い。楽しい。力強い。身体の芯から力が湧いてくる。気がついたら,自分が指揮者の気分になってリズムを取り始め(エア・ギターならぬエア・コンダクター?),最後まで聞き通していた。そして,今では,iPodに入れて1日に1回は聞いている。そして「もっと良い音でこの演奏を楽しみたい」と思い,数週間前から本格的なオーディオの購入を検討している。オーディオの聞き比べに持ち込むのは,勿論このCDと同じ指揮者によるベートーベンの「皇帝」である。
このCDをすっかり気に入ってから,昔から持っていたカラヤンのを聞いてみた。「ベートーベンはかくあるべし」と言わんばかりの重厚さ,悪く言えば,豪華な宝石で飾りたてたような印象に辟易として,第1楽章の途中で聞くのを止めてしまった。もちろん,私はクラシックの素人なので,カラヤンによるベートーベンの良さが理解できないのだろう。ただ,新聞の書評でこのCDを絶賛していたのも,世間で評価の高い音楽家である,というのも事実である。そして,カラヤンの「運命」しか知らなければ,私はベートーベンを楽しむことなく人生を終えてしまうところであった。
ベートーベンに開眼させてくれたパーヴォ ヤルヴィに感謝。
私の偏見であろうが,このCDを聞きながら「これこそがベートーベンの当時の演奏に近いのかもしれない」と思う。そして「おそらく当時の聴衆は,ちょうど現代人がビートルズの I wanna hold your hand.やShe loves you.などを初めて聞いて受けたような,衝撃と新鮮さ・躍動感・生命力を感じたのではないだろうか」とも思う。
「モーツアルトやバロックをヒーリング音楽やBGMとして楽しむけど,ベートーベンはちょっと。。」という方は多いはず。
そういう方に,是非是非,オススメしたい一枚である。
一度は聞いてみて欲しい。