戦後編をもっと詳しく読みたい
★★★☆☆
ナチスと映画のテーマには昔から、岩崎昶というすでにだいぶ前に鬼籍に入った映画評論家が書いた「ヒトラーと映画」や、その種本のクラカウァーの「カリガリからヒトラーまで」、クルト・リースの「ドイツ映画の偉大な時代」など日本語で読める様々な類書がある。だから、本書のポイントは戦後の映画の中のヒトラー像のほうだろう。ところが、そこがやや通り一遍。特にアメリカの映画。例えば佐藤忠夫が言ったような「うぬぼれ鏡」としての戦後映画という、はっとするような指摘はない。また、監督として名前は挙がっているが、亡命監督のダグラス・サークが監督した五十年代末のアメリカ映画「愛するときと死する時」は東部戦線のドイツ人兵士を主人公にしていて、この本のテーマからしたらいろいろと調理の仕方があっただろうおいしい映画のはずなのに。。。また、同じく五十年代後半頃に立て続けに作られたドイツの戦争映画、例えば「アフリカの星」とか「壮烈第六軍」、あるいはギュンター・グラスが物議を醸したグストロフ号の映画もあったはずで、こうした戦後すぐのドイツの戦争映画もおいしい素材のはずなのに、巻末の一覧にも出ていない。新書という性格上、紹介程度になってしまうのは仕方ないのだろうが、多くの書物で読める映画によるプロパガンダとかリーフェンシュタールなんかよりも、もっと戦後の映画を大きく取り扱ったほうがよかったのではないだろうか?
ヒトラーは悪なのか?
★★★★☆
プロパガンダとしての映画を発明し、
それをうまく利用したナチス、
敗戦を覚悟し自殺したヒトラーは、
映画の中でそのイメージを変えつつ未だに生き続けている。
あとがきの一節より
『ヒトラーを「絶対悪」と決めつけてしまうのではなく、当時の映像からその凄まじい人気をもたらしたものは何だったのかを探ることができるのではないか。』
ナチスの生んだ映画『民族の祭典』は、
現在においても、名作として語り継がれています。
たしかに、「絶対悪」「戦争犯罪人」としての
イメージとはまた違った点が多いヒトラーという人間は、
知的好奇心が生まれる存在だと思います。
興味があるからといって素人が本を書いてはいけない
★☆☆☆☆
少し読んで馬鹿馬鹿しくなって放り出してしまった。朝日新聞社から出ていた『ヒトラーと映画』を読んだ直後だったこともあって、この本の第一部の記載内容が他の本からのセカンドハンドの知識であることがすぐに分かったからである。まあ昨今の新書はパンフレットのような水で薄めたような内容のものがほとんどだから目くじら立てることもないのだろうが、あんまりではないか? 著者にというよりも編集者に猛省を促したい。
佳作です
★★★★☆
数あるナチズムやヒトラー関係の中公新書の中では、佳作といえます。『アドルフ・ヒトラー』、『ナチズム』等の著者である村瀬興雄氏よりも文才は優れています。著者は中堅のドイツ研究者のようですが、次作にも期待したいと思います。
こうしたテーマに興味を持ち始めた高校生の入門書なら
★★★☆☆
本書は二部構成。前半はナチスがいかに映画をプロパガンダの道具として効果的に活用してきたかについて論じ、後半はナチ時代から現代に至るまでヒトラーやホロコーストを映画がどのように描いてきたかを概観します。
このテーマについてはこれまでも類書がいくつも出ていますし、今さらという気もしなくはありません。目新しい映画論が記されていると感じさせる部分も見つかりませんでした。高校生くらいの読者が、ナチスと映画というテーマに入る最初の入門書としては悪くない、といったところでしょうか。
一方、巻末に付された、映画リストはなかなか参考になります。1946年から2008年までに撮られた欧米の映画・TVドラマの中から、ナチスを多少なりとも取り扱った作品を100あまり列挙しています。このリストを参照しながらDVDを渉猟してみるのもいいかもしれません。
私なりにこのリストを補足して作品を三つ付加しておきます。
1995年「聖週間【字幕版】 [VHS]」アンジェイ・ワイダ監督
戦時中にユダヤ人女性をかくまったポーランド人家族の物語。占領下にあったポーランドでも、ナチスの反ユダヤ人政策に同化していった国民がいたということを告発する社会派作品。
1998年「美しき虜【字幕版】 [VHS]」ペネロペ・クルス主演
ナチスの宣伝相ゲッベルスによってベルリンに招かれたスペインの映画人たち。彼らが時代に翻弄されていく姿を描く。ドイツ人女優ハンナ・シグラも出演。
2001年「es[エス] [DVD]」
擬似刑務所において囚人役と看守役に分かれて行なわれた心理学実験を描いたドイツ映画。米国スタンフォード大学の70年代の実話をもとにしているが、ナチ収容所運営者の心理状況もかくやと思わせるスリラー作品。