この短編集は、一見平凡そうでいながら、何かのきっかけで少しだけいつもの日常から逸脱してしまった人々のお話です。
しかし、綴られているのは本当にありのままの「生活」で、そこにはいかにもな物語的脚色は感じられません。
故に、現実の脆さ、人間の弱さ、醜さ、も
何気ない瞬間に気付く世界の美しさ、も、人と人との触れ合いから生み出されるあたたかさ、も、切なさ、も
全てが等価値でそこにあります。
それはとても正直な姿勢で、だからこそ、彼女の作品の読者一人一人がそこから必ず「何か」を受け取り、またひとつ、前に進む気持ちになることが出来るのでしょう。
南先生は基本的に現実世界を常にまっすぐ、ありのままの目で捉えようとなさる作家さんです。
しかし、そこから生み出されるストーリーはあくまで登場人物の等身大の生活レベルで語られます。
だからこそ、読者に安心感を与え、共感させることが出来るのだと思います。
さらりと描かれた独特のタッチのイラストも、良い味を出しています。個人的にはこの方の描かれる人物のフォルムが好きです。手の表情が良いと思います。
南先生の作品をこれから読み始めるという方にもお勧めしたい佳品です。
Q太さんはなぜココまで
リアルに恋愛感情の描写ができるのでしょうか?
(もちろん具体的には何も描いてないんですよ?
でもすごくうまいんです。主人公の複雑な心情の描写が)
なんでもない日常の出来事も
Q太さんが描くだけでこんなに後になって、じわーっと効いてきます。
読んでみて損はない一冊です。