これは買い
★★★★★
これはすごくいい企画ですね。49頁の書き下ろしに加え、未収録作品を3本も収録してこの値なら、この光文社のシリーズとしては拍手喝さいものです。なぜ他の本でこれが出来ないのか。とても満足感があります。内容も素晴らしく、どの作品も、諸星先生らしい味わい深い秀作ばかりです。
“ロトパゴイの難船”と“砂の巨人”は、「砂の巨人(デュオセレクション)」として出版された後、中央公論社から出版された全1巻の愛蔵版「マッドメン」に収録されたことがあります。“砂の巨人”は「彼方より (諸星大二郎自選短編集)」にも選出されました。
気の抜けたサイダーみたいな本。
★★☆☆☆
高額で立派な造本なので興味深く読んだが失望した。
諸星ファンならお馴染みの舞台装置の上で、登場人物が懐かしい行動パターンを繰り返す。
「どこかで見たかな?」と思い返すフレーズで、かつての毒が薄まった。
諸星は初期モノが素晴らしい。
最近の諸星は気の抜けたサイダーみたいだ。
本書が1/4の値段ならお勧めしたい。
welcome back...!!
★★★★★
諸星大二郎は正直『終わった』と思っていた。
神話世界・考古学的世界への精密な考証と突出した解釈で我々を魅了し、
一介の漫画を遥かに越える衝撃を与えた天才作家。
その作品群は、かつて呪術的世界・古代世界の闇がこの現代に繋がっていると本気で我々に思わせ、読んだ者の日常を、まるで見覚えない異世界のように変えてしまったものだった。
そんな力を持った作品が、果たして世の中にどれほど存在するだろうか。まさに天才だけがなし得る仕事だったはずだ。
…皮肉なことに、作品が有名になり、漫画界での名声を確立すると共に、彼の作品からは闇が消え、取ってつけたような笑いがそれに代わる。
かつて作品の根底に常にうごめいていた異形のものたちは消え失せ、もはや何処を捜しても居なくなってしまった。
彼の作品にさす影が彼自身の心の闇であったことに、そのとき我々は初めて気がつき、そして『ああ、諸星大二郎は終わったのだ』と思ったのだった。
― それから時は移り、2009年初頭。
書店で見かけた『巨人譚』を真夜中に部屋で開く。オデュッセウスの話、砂の巨人の話、テーセウスの話…みな昔一度は読んだ話ばかりのはずだが…。そして神話世界への復帰を宣言するかのような新作。
読み終わって顔を上げると、外はまだ暗い朝5時。だが…まるで北アフリカの砂漠をさまよってきたような、地中海を小船で漂流したかのような、そして悠久の時を俯瞰してきたかのような、そんな錯覚に囚われてしまった。
お帰りなさい、諸星大二郎。やはり我々には、貴方の闇が必要だ。
ギルガメシュ、テーセウス、オデュセウス・・諸星流の神話世界
★★★★★
巻頭の作品『ギルガメシュの物語』に始まる、約三十年にわたって描き継がれた連作は
一本の短剣をめぐり、古代メソポタミア、クレタ、アフリカを舞台に展開する壮大な物語です。
舞台はおもに神話世界ですが、神話にその名を残している英雄たち(のモデル)が
卑怯で野蛮な文明の破壊者、あるいは夢に憑かれた放浪者として
描かれているところが、諸星ワールドの真骨頂といえるでしょう。
征服し、破壊し、やがてその野心のため自らを滅ぼす男たちと、
大地に生きるアフリカの少年、運命に翻弄される少女といった
登場人物が織りなす雄大な叙事詩は、人類の縮図ともいえる普遍性を持って
現代に生きる私たちの心にも強く迫ってきます。
第二部の二編の中国物は、『諸怪志異』の系列に連なる奇妙な味わいの佳品で
これまた諸星ワールドを堪能できます。
1600円と値段は少々お高めですが、装丁も奇麗で紙質も良く、
しっかりした作りの本なので、諸星ファンにはお勧めだと思います。