劇場型政治フランス上陸
★★★★☆
「サルコジはビジネスの世界の論理を深く理解し、マーケティング理論を実践している
国家経営者なのだ。強い指導力を持った経営者だからこそ、怖いもの知らずの行動ぶりを
誇り、すべてを自分の統制下に置こうとし、派手な私生活を隠しもしない。こうして、
自分という商品を有権者に売り込むのである。……本書は、サルコジの政治手法を検証
しつつ、現代の世界の潮流になろうとしているマーケティング政治の実態とからくりを
解明するのが目的である」。
確かに、こうした分析もなかなかの冴えと論理性を持ってはいるのだが、基本的に
本書はサルコジの生い立ちや異性関係、政治家としての歩みを綴った評伝。
ひとつには専門性の高度化により無知蒙昧で不勉強なたかが政治家風情では政策への
介入が困難なものと化したが故に、ひとつには「政治の感情的、情熱的な側面がますます
強まっている」が故に、現代における政治家に求められる最大の資質と言えば、その
メッセージを強力に発信する能力であり、その雄弁術に説得力を持たせるためのセルフ・
プロデュース能力となった。かくして今や、何を発信するか、ではなく、どう発信するか、
誰が発信するか、が問われるべきことと化した。
本書はフランス、サルコジを例に「国を担う政治家の時代」から「エキスパートの時代」、
そして来るべき「ストーリーテラーの時代」の到来を語る。
筆者も強調するように、これは決してフランスに固有の文脈ではない。
作家のことばを手がかりに、「ストーリーテリングは決してうまくいかない戦略なんだ。
宴はいずれ終わる。宴の後にだまされたと気づいた民衆の復讐が待っている」との結論を
筆者は引き出す。
歴史の経過を見るにこの結論自体はまだ早計との感はあるが、ひとまずの間接民主政の
終着点と呼ぶべきこの事態を考えるにおいては絶好の素材を提供する一冊。
もちろん単純にサルコジの立身出世伝としても面白いテキスト。
「サルコジ」というストーリー
★★★★★
2007年からフランスで大統領を務めるニコラ・サルコジ。
彼のこれまでの人生と、その政治、自分の「見せ方」について語られた本。
これまでのフランス大統領とは、何かが違う。
漠然と抱いていたサルコジ大統領と、従来のフランス大統領の違いが
本書を読んで、得心できました。
落ち着いたエリートで、洒脱な雰囲気のこれまでの大統領に比べ、
移民2世で、一介の党員から成り上がり、私生活にスキャンダルを抱え
せっかちなほど行動的で、喜怒哀楽がはっきりとしたサルコジ。
本書では彼の言動を、自分という「ストーリー」を紡ぐことで
有権者の支持を得るための彼の手法だと、指摘しています。
そして本書で大部分を占めるサルコジの「ストーリー」は、実際に面白いです。
成績はぱっとせず、背が低いというコンプレックスを抱いていた青年が
バイトで届けものに伺った選挙事務所で勧誘され、政治の道へ。
強い上昇志向と精力的な努力で、フランスでは珍しい一介の党員から大統領まで成り上がったサクセスストリー。
不倫、再婚、妻の駆け落ち、三度目の結婚といったスキャンダラスな私生活。
次々に打ち出される政策、強引な態度、失言。
遠くから眺めているぶんには興味深く、魅力的でさえあります。
けれど。
実際の政治家としてはどうなのか……。
本書でも疑問が投げかけられている通り、次々に打ち出される政策がどのような成果をもたらしているのか、
また彼の強権的な政策の下で犠牲になる人々。
以前に読んだ2005年、2006年の暴動の折のサルコジ大統領の態度を思い返すと
そんなことが頭から離れませんでした。
もちろん、政治の善悪は各自の立場や事情によって、真逆になるものではありますが。
文体は読みやすく、サルコジという役者のストーリーはおもしろく、
フランスの現代社会や政治についても窺える本でした。
面白い本だけど、題名に偽りあり
★★★★☆
現在のフランス大統領であるサルコジの生い立ちから行動、政治手法等を追った本。よりも、「マーケティングで政治を変えた」というポイントに惹かれて読んでみた。
まずはサルコジという大統領が、私のもつ「フランスの大統領」のイメージとかけ離れていることに驚く。彼の人生は、生い立ちから今まで、波瀾万丈。特に、多くのページが割かれて解説されている彼の2回の結婚とフランスの起業幹部とのエピソードには、そのご夫人のキャラクターの強さや登場する企業の華やかさもあって、小説並みに面白い。
また、フランスでの年齢的な「常識」に驚かされる。サルコジがフランスで最も豊かな街であるヌイイ市議になったのが22歳で、そこの市長には28歳でなっている。また、サルコジは当時30歳の女性を大臣として登用している。フランスでは「老害」という言葉が無いのかと思う程、若いうちから重要な役職に就くのは、日本との差を感じずにいられない。
また同様に、フランスでのメディアが他の業界(例えば軍需産業)に握られていて、政治的にも産業的にも露骨なメディア操作がされていというのも知らなかった。どちらかと言えば、とてもリベラルな国だと思っていたフランスで、メディア産業が誰かに牛耳られているとは!
というわけで、日本ではあまり知られていないが本国では圧倒的な人気を誇るサルコジ大統領について学べる貴重な本であり、またフランスの(日本とは違う)常識を知る事のできる、とても面白い本。予想以上に面白かった!単純な読み物として、政治に興味がある方も無い方も、広い方にお勧め。
但し、副題の「マーケティングで政治を変えた大統領」というのは、その解説をしているのは第8章ひとつだけで、大部分はサルコジの生い立ちや行動の解説。第8章も、サルコジの手法が「ストーリーテリング」的であるというだけであり、それは特別なものでもない(著者自ら、ブッシュも多用したと説明している)。よって、貴重で面白い本だけど、題名に偽りありなので、☆は4つのみ。
『サルコジ劇場』の実像をコンパクトに紹介
★★★★★
本書は、朝日新聞の記者で
フランス政治やイラクに関する著作のある筆者が
サルコジ大統領とそのメディア戦略について考察する著作です。
移民の子として生まれた生い立ちから
ドピルパン、ロワイヤルといった強力なライバルを
劣勢から打ち破った大統領選―
そして、大統領になってからの私生活上の問題や奔放な発言と
今までにない斬新な政権運営・政策などを
具体的なエピソードをふんだんに用いて政治家ニコラ・サルコジを概観。
そのうえで、彼の行動を支える綿密な計算を
「ストーリーテリング」というマーケティング戦略の観点から分析します。
個人的には、サルコジについて
移民政策、スカーフ問題、大学改革など賛成できないものも多くあるものの
パリテ、グルジア、チベット、地中海サミットなど
やるべきことはしている、そんな印象を強く持っていたのですが
本書を読むと、
戦略に乗せられすぎていたかもしれない
もうちょっと距離をとらなくてはいけないのかもしれない
そんな危機感を強く抱きました。
とりわけ、地中海サミットなどについて
注目を浴びることに重点が置かれ
その後特に進展していない―という指摘は目からウロコで、
冷静にサルコジの政策を見つめる必要性を実感しました。
議会での演説やフレデリック・ミッテランの登用など
まだまだ世間の注目を浴び続けるであろうサルコジの実像と、
彼に振り回されないための視座を提供する本書。
ここでの議論はフランス政治に限らず
国政を目指そうとする元知事や某知事にもあてはまると思うので、
ぜひ多くの方に読んでいただければ―と思います。
政策には必ずしも賛成しないが、行動は面白い!
★★★★★
副題−マーケティングで政治を変えた大統領−に引かれて読んでみました。
マーケティングの教科書ではないので、具体的な手法(名)が出てくるわけ
ではありません。でも、詠み進んでいくと、確かにサルコジの行動はマーケ
ティング的視点で行動しているな、と分かります。
打ち上げ花火で終わってしまう政策もないことはないが、緻密な準備の元
に政策をぶち上げているのは流石だな、と思います。
個人レベルでは、これまでの大統領と違い、政治家向けのエリート大学
(枡添要一大臣が若い頃教員になってくれと誘われたENA等)を出ずに
のし上がってきたこと。階級社会であるフランスでは快挙で、評価したい。
ただ、悪ガキの様な、口汚い言葉や洗練されていない態度もこれまでの
大統領とは異なり、どこまで計算してやっているのかな、と思います。
日本の政治家にも、彼くらいの行動力が欲しいとは思います。でも、サル
コジの場合、大手マスコミも傘下に入れて言論統制して全体主義的な国に
ならないか、と心配です。フランス映画「Z」をふと思い出します。
他人のプライバシーには基本的に興味はないが、3人目の嫁カーラが再婚前
付き合っていたエリック・クラプトンやミック・ジャガーとのやり取りは
ロックファンとして(?)面白かったです。