京極夏彦のイメージ通りのスピンオフ小説
★★★★☆
京極堂の百鬼夜行シリーズのサイドストーリー集でありながら、登場人物たちがいかに妖怪に出会い、恐怖し、事件に関係していったかを一人称視点で描いている。ともすれば、妖怪たちはメインストーリーの中では添え物的であったが、登場人物たちにとっては、それは実在したに等しい恐怖の存在であった。妖怪とはおのが心に住み着くもの、決して作り物と馬鹿にできないのだということだろう。京極夏彦に持っていたイメージそのままの作品集で楽しめる。
あくまでサイドストーリー。
★★★★☆
本編をさらに奥深くなるように肉付けしている短編集。本編を邪魔することなく、それでいて、もう一度本編を読み返したくなる、そんな本です。
また、本編の主要登場人物の登場や憑き物落しを期待しすぎるとがっかりします。
百鬼夜行シリーズの世界にどっぷりと漬かりたい人にお勧めです。(「塗仏」までの本編を全て読んだ後で。)
合理的な妖怪作家
★★★★☆
京極氏の作品は各作品の登場人物が各作品で複雑に絡み合い、一種閉鎖的な世界を構築し拡散しているように思う。
この作品では、妖怪シリ−ズのメイン、サブキャラのサイドスト−リ−が描かれており、作品の深みを増している。
あえて言うと、あくまでサイドスト−リ−なので、この中の短編だけで評価云々と言うのは難しく、各元の作品の中に融合した上で、奥行きを感じるのが本当に楽しみ方なのかもしれない。
京極氏の作品の表現は非常に合理的であり、時には辛らつにまたは冷酷に我々が普段善意に感じていることすら分析のメスが入り、美点と思っている点まで心の闇に評価されてしまうことがある。
時に、自分と関口を同化させていまい、暗い気持ちになることもしばしばである。
その、合理的表現方法に中に非合理の代表である妖怪が登場するミスマッチングこそ京極印なのだろう
この作品は妖怪シリ−ズを読破した後に触れられるのが美しいと思う
逆憑き物落し
★★★★☆
「京極堂」シリーズのサイド・ストーリー。「京極堂」シリーズ中の登場人物(主に脇役の被害者/加害者)の一人に焦点を当てた作品が10編収められている。取り上げられる人物は、「目潰し魔」、「病院長の娘」、「女性運動家の教師」等、シリーズを読んでいる方にはお馴染みの面々。
本作では、各人の心に"妖しき物"が取り憑いていく様を克明に描いており、良く出来た恐怖小説の趣きさえある。その意味で、「京極堂」シリーズと切り離しても充分堪能できる。そして、この「心に"妖しき物"が取り憑いていく様」は、京極堂が行なう「憑き物落し」の裏返しなのだ。この対比もうまいと思う。「妖怪とは人間の心の襞が産み出すもの」という言葉を作者は別の場所で語っているが、それを実践したような作品だ。
本作の最後の対象として取り上げられるのは関口なのだが、私は関口のファンなのである。「京極堂」シリーズでは殊更矮小に描かれる関口だが、自分の分身を見るようでシンパシーを感じる。そんな関口が心の揺らぎを覚えながら、だんだら坂を上って行き、向かう場所は「京極堂」。「姑獲鳥の夏」の始まりである。
そして彼らはあの日を迎えた…
★★★☆☆
京極堂シリーズの脇役たちに焦点をあて、
彼らがあの事件のとき、あの事件に至るまで、
何を思い、どうその日に辿り着いたのかが描かれていく。
『姑獲鳥の夏』の久遠時涼子
『絡新婦の理』の杉浦隆夫、平野祐吉、山本純子などなど…、
本編だけではわからなかったそれぞれの一面が見えてくる。
だからこそ、本編を読んでからの方が、「あぁ、そうか」と、
思えるハズ。
本編の重厚さを求めて読み始めてしまったため、ある種の物足りなさを感じてしまったものの、これはこれとして違う楽しみ方ができる。
我らが関口巽が主役の「川赤子」も必見。