EUとヨーロッパ型CSR、NPOがわかるの良書
★★★★★
この本は、CSRの事例集やその研究書ではありません。
過去のヨーロッパで起こったCSR及びその周辺の議論をまとめ、
日本人が想起するような環境中心のCSRとの違いを明らかにしながら、
これからの日本企業のCSRのあり方について考察しています。
ヨーロッパのCSRは深刻な社会問題である「雇用問題」が発端であり、
問題解決の議論の中で、企業は「社会の持続的な発展」への貢献を
企業活動のなかで果たすことを求められるようになったと説明しています。
本書ではそれぞれの議論が「粘り強く」まとめられています。
EUの理念、EU委員会と議会、また各国とのパワーバランス、
「規制」のあり方、ステークホルダーとしてのNPOの存在……
こういったEUの思想や意思決定の方法が、経験者としての視点で
記されており、現在のEUの意思決定をする上での「思想」というものも
知ることができます。
また日本のNPOが、ほぼボランティア団体のような立ち位置であるのに対し、
EUのそれは、一種のステークホルダーとして企業等の監視役となり、
彼らが企業の「社会的責任」にプレッシャーをかけていると述べています。
日本でも、大きな可能性をもつ企業を育て、監視することで
社会をよりよいものにしようとするヨーロッパ型のNPOに
学ぶことも多いのではと、この本を読んで感じました。
CSRの源流に迫る
★★★★☆
CSRには、EU型、アメリカ型、日本型があり、日本型はアメリカ型に近い。
日本型=環境+社会貢献+法令順守:業務外的
アメリカ型=フィランソロピー+地域社会:業務外
EU型=労働(雇用)問題+持続可能性対策:業務内
EU型が業務において、CSRを追求していくのに対し、アメリカ型は業務外において、儲けたお金を使ってCSRを行うという基本的な考え方の違いがある。ビル&メリンダゲイツ財団が典型的と言える。
映画 「ザ・コーポレーション」をご覧になればすぐに納得いただけることとして、企業は制御不可能に近い状態にある。利益追求に歯止めをかけられないということである。
法的にはどうすることもできない状況にあるが、何らかの対策は急務である。その時に登場したのが、CSRなのである。
そのため、ライブドアの事件が裁判でいとも簡単に終焉を迎えようとしている日本においては、上記のような発想は出てきにくい。(もちろん、日航コーディアル事件により、上記発想が出る人もいるだろうが。)
それ以外の違いとしては、NGOの働きが挙げられている。EUのNGOは、人々に信頼され、実行力があるが、アメリカ・日本はあまりそうではない、ということである。
もちろん、すべてのCSRがEUに追従する必要はないが、学ぶべき点は多いということをこの本から感じた。
CSRの本質を分かりやすく整理し、明快に解き明かした経営者必読の書
★★★★★
本書は、ヨーロッパのCSRの根本理念と欧州委員会および各国の政策としてのCSR、グローバル企業の経営戦略としてのCSR経営の背景、ステークホールダーの果たした役割などを極めて分かりやすく解き明かしている。この本を熟読すると、CSRの理念は各国の文化とか社会習慣などの異なった条件を超えたグローバルな価値観であり、欧米のCSRとか日本のCSRが個別に都合よく存在するのではないことがよく理解できる。
私は欧州で13年間直接経営に携わってきたが、日常の経営戦略の中でCSR経営を実践していくことの難しさや多くの問題に直面した。本書を熟読して「眼から鱗が取れる」思いでこれまで整理されていなかったCSRの本質を理解することができた。
日本でこれまでに出版されたCSR関係の本の多くが、CSRの定義とか歴史・方法論などについて解説しているのに比べ、欧州のさまざまな時代と分野で直接CSRの議論と実践に携わってきたこの本の著者は、CSRの基本理念やその背景をリアルに説き起こしており、CSR的経営とは何か、企業活動の枠を超えてその重要性の本質を考えさせる読み応えのある内容である。
グローバル企業のトップマネージメントに携わる人、CSR担当者はもちろんのこと、CSRは卒業したと思われている方々にも是非ご一読をお勧めいたします。
EUに関心がある人必読の書
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「EUの首都」ブリュッセルで産業ロビイストとして政策決定に深く関与した筆者が、グローバルな課題であるCSRと環境保護に焦点を当て、事例を踏まえつつ、欧州委員会・欧州議会・産業界・NGOからなるEUの複雑な「多層構造」が生み出す政策形成のダイナミックスを鮮やかに描き出している。
ファンクショネア(EU行政官)やロビイストの息遣いさえ聞こえそうな、臨場感のあふれる記述だけでなく、政策現場の経験に基づく高い知見と、米国や日本の実情をも踏まえた透徹した視点に、読者が強い感銘を受けることは間違いない。
欧州統合の歴史的背景やソーシャル・ヨーロッパとリベラル(市場経済主義)・ヨーロッパの思想的対立軸を見据え、CSRと環境保護の背景にある「理念性」への深い洞察に裏打ちされた本書は、EUに関心がある人必読の書である。
CSRを自分で考えたい人は必読です。
★★★★★
CSRについて新鮮な視点や問題提起が満載されている。例えば、ステークホルダーとの対話について。多くの本は対話のやり方を解説するけども、この本は欧米的意味でのステークホルダーは日本に存在するのかという問いから出発する。個人情報保護規制が厳しい理由などヨーロッパの実情に通じた著者ならではの指摘にも唸らされることが多かった。
最近話題のROHS指令などの環境規制も扱われているので環境部署の人にも参考になると思う。
CSR本はどれを読んでも似たような決まり文句が並んでいるように感じていたけど、この本はオリジナリティと思考の深さで傑出していると思う。マニュアル的なCSR理解を超えて自分で考えたい人にお勧め。繰り返し読もうと思う。