にしても荒井先生はお元気ですね
★★★★★
個人的に面白かったのは使徒行伝12:12でペトロがマルコと呼ばれていたヨハネの母マリアの家に行った、という「家」は、マルコがラテン名であるからギリシア語を喋るユダヤ人であるヘレーニスタイの教会である可能性があり、最初期の1:13-14に言及されている、所謂「屋上の間」のある家がヘブライ語しかしゃべらないヘブライオイたちが集まっていたのと比較できる、というあたり。後に、初期共同体はヘレーニスタイとヘブライオイに別れますが、その様々な証拠のひとつとして、個人的には覚えておこう、と。
「使徒「ユニア(ス)」 ローマ人への手紙一六章7節)をめぐって」は抜群に面白かった。新共同訳のロマ書16:7「わたしの同胞で、一緒に捕らわれの身となったことのある、アンドロニコとユニアスによろしく。この二人は使徒たちの中で目立っており、わたしより前にキリストを信じる者になりました」で言及されているユニアス(男性名)は実は女性名であり、女性使徒がいたこと(しかも自分より早く信者になった)をパウロも認めているという内容。と同時に、日本のカトリック系の翻訳は、ずっとユニア(女性名)を採用していたのに、プロテスタント側に押し切られるような形でユニアス(男性名)を採用しはじめたというのは、日本のキリスト教というコップの中の政治の話としても面白かったです。
これにはカトリックの正典ともいうべきヒエロニムスによるラテン語ではIunianと女性型になっているので、近代になっても「ユニア」という女性名で翻訳されていたが、第二ヴァチカン公会議(1962-65)でプロテスタントとの共同翻訳が奨励された結果、ウルガタから離れてギリシア語校訂本 (NGT)を底本としたため、「ユニアス」と表記するようになった、という皮肉な歴史があるんですな。