憂国の情あふれる一冊
★★★★★
太平洋戦争末期の特攻作戦のうち「海の特攻」「人間魚雷」と呼ばれた回天作戦に焦点を当てた本です。
60数年も過去となってしまったあの戦争について、一次情報をもとに書こうとした場合、生存者の証言に頼ることになりますが、21世紀の現在、生存者は当時18、19歳の階級の低い兵卒が中心になります。生存者の証言に頼るあまり、ともすれば全体像を見失いがちな類書が多い中、本書は生存者や肉親へのインタビューはもちろん、当事者が残した日記や手紙、遺書に到るまでを丹念に読み込み、現時点ででき得る限り特攻隊員の精神に迫っていきます。
特に、回天の考案者であり訓練中に殉職した黒木博司大尉の生涯を縦軸に置き、横軸となる生存者へのインタビューも回天要員だった計1361人のうち約7割を占める935人が所属した旧海軍第13期甲種飛行予科練習生の生存者を中心に取材しており、この面からも回天作戦の全体像を示すことに成功しています。
著者は新聞記者、書籍編集者、フリージャーナリストをへて再び新聞記者を務める昭和28年生まれの男性。その姿勢は、航空特攻に取材した前作で最近文庫化された『「特攻」と遺族の戦後』(角川ソフィア文庫)以来、一貫しています。すなわち、ここまで劣化しきった現代日本人を目覚めさせ、再び立ち上がらせるためには、60余年前に現実に存在した日本人の生き様に学ぶほかないという固い信念です。
確かな事実に基づいた憂国の情あふれる一冊。回天について知りたい方にとっては最良の入門書であり、ある程度、知っている方には「特攻」を未来へと語り継ぐことの意味を考えるきっかけとなる好著です。