以降、岩城さんは数多くの名エッセイを書かれ、今でもその多くを読むことができます。山本直純さんとの友情を描いた『森のうた』なんて大名作もありますが、彼の音楽エッセイのすべてのエッセンスは、最初に書かれた本書にあると思います。たぶん、いちばん面白いです。
音楽教育のことを教育ママに語る、という体裁をとっていますが、彼は繰り返し「音楽は楽しいもんだから、あなた自身が楽しみなさいよ。リズムを感じて、体を動かすことが音楽なんだよ」と読者に語りかけます。ある意味、挑発がうまい。
彼は理屈ではなく、いろんなエピソードを積み重ねて、音楽教育について語ります。伝えたいことを直接言ってしまうのではなく、「カラヤンはこうだった」「ぼくの先生はこうだった」「こんな人がいた」と。そのエピソード一つ一つがべらぼうに面白い。感動的なんです。
私は、交響曲とかが好きじゃないので、岩城さんが振った演奏も聴いたことがありませんでした。でも、本書を読むと聴きたくなります。本書から、彼の音楽への愛が伝わってくるからです。
音楽を愛するすべての人への、捧げものだと思います。絶対に損はしません。