社会・国家の起原論
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思想家という部分でも、文筆家という部分でも抜きん出ている印象のあるルソーの、社会契約論に先立つ著作。著者や著作名についての前もって抱いていたイメージは、やはり読んでいくと覆されていく。
タイトルは「人間不平等起原論」となっているが、実際には原始状態としての自然人を設定した上での、社会と国家の成立過程を論じる部分に重点が置かれている。よく「ルソーの性善説」というのが「ホッブスの性悪説」と対立して述べられることが多いが、ここでのルソーの記述からは公民状態を規制して安定した国制を作り上げる、法の支配に基づく「国家」の重要性と必要性は間違いなく認めていて、その点でホッブスの国家論が主張する国家の重要性・必要性とは必ずしも矛盾していない。ただ、モンテスキューが法の精神第一部で言っていた制限政体の腐敗に対する危険性がここでは強調されているので、読み方によっては国家否定の言説と読まれかねないと思う。
また、第一部での「自由」についての記述は、カントが第二批判・第三批判で用いた「自由意志」の機能とほぼ同じであることが想起できるし、第二部での、人間が原始状態から継起的に発展していく描写からはヘーゲルからフォイエルバッハ、マルクス・エンゲルスへと繋がっていく「弁証法的運動」の原型が見出せるし、アーレントが「全体主義の起原」第三巻で暴き出した全体主義の支配は、ルソーのこの著書での主張の根拠をすべて無効にし、ルソーの危惧が現実化されたことも教えてくれるなど、後世の社会思想に大きな影響を与えたことが分かる。
そんなにページ数も多くないし、手軽に読めると思います。
肩肘張らずに楽しく読める古典書
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この書は、「社会契約論」より早い時期に書かれています。そういう意味で「社会契約論」に通じるルソーの哲学の通過点として、「社会契約論」より先に読む価値はあると思います。また読者は本書を学問的に、そして歴史的価値として精読するべきというよりか、それを通り越して、率直に読み物として力をぬいて楽しめるのではないかと思います。
本書は、人間はいかに原始状態で、つまり自然状態において自由で平等であったのか、そしてそこから人間や文化の進歩にしたがって、どのように私有財産や法律などの概念を生み、不平等化による奴隷などの弊害をつくりながら国家を創出するにいたったのかの過程を論じています。その中でルソーは、理性、感情、欲求、自尊心といった人間の性質から、動物、農業、食事、病気、健康、恋愛、アフリカの未開人の生活様式、家族、教育といったものまで、様々な具体例をとりあげつつそれらを組み合わせて人間について熱く述べており、タイトルは堅苦しいですが、ルソー版人類学の側面としておおいに注目できます。個人的には、後半の政治や社会制度の進化と成立の過程論以上に、多くを占めるそういった人類学的な論述の方が興味深くて種々の発見と共に楽しく読めました。少し長いですが原注も必読です。
最後に、もちろん「社会契約論」とセットでお勧めします。
ルソー渾身の作品
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本当に昔は不平等のない社会だったんですか?やっぱり思考の実験ですか?いろいろ設定を細かく指定してるところが憎い!「あ、あれは頭の中で考えただけで、本当の事じゃないんです。」って言い訳が出来るようにしてます。おおっぴらにやっても、こそこそやっても、検閲を受けるんだったら、最初から堂々と書いてしまったら心も安らぎ、心おきなく国外に逃亡できます。そう言うことで。