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芸術哲学入門 (文庫クセジュ)

価格: ¥1,260
カテゴリ: 単行本
ブランド: 白水社
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現在買える本の中でもっとも最適な大学生向きの美学・芸術学の教科書 ★★★★★
 もとよりこの分野は我説をゴリ押しする独善的な主張の本ばかりで、美学・芸術学の学生向きの素直な教科書が少なすぎる。そんな中で、この本は、著者の主張を抑えつつ、学説史の全体を紹介するという目的に徹しており、一般教養課程の教科書として、現在、ふつうに買える本としては最適だろう。

 もちろん、これはあくまで入門書であって、これを読めば美学や芸術学がわかる、などというものではない。言ってみれば、旅行ガイドのようなもので、これをきっかけに、専門課程で原書のいくつかに実際に当たってみる、ということになるだろう。

 いつか問題もある。主要トピックに限定しているため、プラトン、カント、ヘーゲル、ニーチェなど、ビッグネームに比重が置かれている。そのくせ、フランスのメルロ・ポンティなどに余計なページを割いて、中世・ルネッサンス・近代の、宗教や科学と芸術の関係という大きな問題はネグレクトされている。また、芸術哲学と言いながら、芸術の制作者側の視点は、やはりフランスのドラクロワなど、妙なものが上げられ、ゲーテのような大物思想家が欠け、ベートーヴェンも、ゴッホも言及されない。20世紀の現代芸術の大転換もフォローできていない。概してフランス絵画の中華思想に毒されている。

 薄い本でもあり、多くを求めるべきでもなかろうが、美術以外を専攻する学生は関心を持てないかも知れない。教科書に使うにしても、教員が、絵画はもちろん、音楽や建築、演劇や映画などの話題も、具体的に取り込む必要があるだろう。

 
手ごろな入門書(もちろん原典を読むべきだが) ★★★★☆
哲学家が唯一無二の真理を追い求める者であるのに対して、芸術家とは唯一無二の美を追い求める者。哲学と芸術は太古から密接に関係し、哲学者による芸術論考は、枚挙の暇がない。本書はプラトン、カント、ヘーゲルらの哲学者の構築した芸術論考を、各章一人ずつとりあげる7章構成で解説する

本屋などを散策するに、美術史(芸術がいかに創造されたかの歴史)関連の入門書は手ごろなものがあっても、美学史(芸術がいかに哲学されてきたかの歴史)を時系列に真正面から扱ってくれているような本は、実は少ない。リュック・フェリー『ホモ・エステティクス―民主主義の時代における趣味の発明 (叢書・ウニベルシタス)』などがあるが、あれは初学者には少々ごつすぎる。その意味で新書サイズの本書は最適だ。

ただしかし本書は、訳書としては少々良くない部類に入るのではないだろうか。これは個人的な感想であるが、なかなか日本語として入ってこない文章が散見した。原著ではおそらく流麗なエッセイ調であったはずの文体が、日本語に置き換える際にネックになっているのではないだろうか。これも私の印象ながら、仏訳の場合はけっこうこういうケースが多い気がする。もちろんまるで読めないというわけではないが。

一方本書の利点は、訳者があとがきで述べている通り、読者が原典を読みたくなるような構成になっているところだ。ご丁寧に原典の要所を全て明かし(ように見え)、読者をわかったつもりにさせて原典へと「向かわせない」入門書が数多ある中、本書は原典で著者らが考えたことの概観をなぞりながらも、けしてそれだけではわからないような謎をも、提供してくれている。そういう意味で、読んで字のごとく各原典への“入門”書として、お奨めできる。
芸術に「真理」を求めるところがアナクロ ★★★☆☆
美学史で重要な論者の説を年代順に並べた内容。
最近の入門書としては事項別が多いので、歴史的展開を概観したい方には向いている。

とはいえ、著者は読者に考えさせようとする余りわざと難しく書いていて(訳者がいくらか補足してくれる)、「考えながら読む」というのはいいことだけれど、やりすぎではないかと思う。原典より難しい場合もあるかもしれない。

この著者は、芸術には「真理」が宿るのだ、という主張を最後まで貫く。
ただ賢いのは、芸術の「真理」を、非常に抽象的な概念にして曖昧にしているところだ。

その「真理」がどこから来るのかは、ソクラテスのアポロン神託の場面で、劇作家よりも観客の方がその作家の劇に詳しく、またものを作る人は技巧にかまけてなんでも知っているつもりになっている、というエピソードから考えれば、芸術家自身は「真理」なんて知らないことになる。それで「神がかり」、「天才」、「ディオニュソス」、「大地」、「身体」などの理論が考えられてきたのだろう。

実作者としては、この中では身体説が一番近いと感じる。
そうだ、この本はメルロ=ポンティについて1章割いているという意味でも有用です。

例えば美術の実作者というのは、「美しい」とはどういうことか知らない。でも「こうすれば」美しくなるだろう、あるいは美しくはないけれど「面白い」「批評的」になるだろう、ということがわかる。なぜそれが可能なのか。「美しい」については美学者の方が詳しく知っている(上記の劇の観客を想起させます)のに、美学者はいい作品なんて作れない。これはもう、身体が作っているのだろうけれど、「真理」が宿るとも思えない。ダントー「アート・ワールド」の概念はもうすぐそこです。

とはいえ、優れた芸術作品からは大きな感銘を受けるのも事実で、その説明こそ字義通りのaestetica(「感性学」=美学)で考えるべきと思います。
心理学からのアプローチは単純なものしか扱えませんでしたが。
読み応えあり ★★★★☆
文体が読者に自ら思考する事を要求する類いのもので、
単なるガイドライン以上の読み応えがある。