全七編を通して一貫しているテーマは、名誉の大切さと運命の過酷さで、当時のギリシア人の世界観や哲学が色濃く反映されているように思います。とはいえ、名誉を守ろうと戦う人の姿、運命に翻弄される人の姿は、時代を超えて心を打つものであり、そうした問題に真っ向から取り組んでいるソポクレスの作品は、まさに古典と言えます。
名誉とそれにまつわる仇討ちについては、ソポクレスの多くの劇を通してのテーマとなっていますが、特に勇者の死体を埋葬する・しないの形で問題提起されるケースが多いようです。つまり勝った側に、敗者への配慮を求めているわけです。そして「アイアス」が良い例ですが、驕る人間に対しては、ギリシアの神々が天罰を下します。驕ることの愚かさを描き、警鐘を鳴らしていると言えそうです。そうした倫理観は現代に通ずる重要な哲学で、今なお意義を失っていないのではないでしょうか。
また「オイディプス王」で顕著ですが、特に運命の過酷さを描くにおいて、ソポクレスは、本人に原因があるわけではないのに、過去の呪いから事件に巻!き込まれ、悲劇的な結末を迎えてしまう人々の、どうにもならない苦悩を謳いあげており、その圧倒的な悲劇性は類を見ません。未だに読み継がれているゆえんでしょう。