吉田健一(訳者)はもっとがんばれなかったのか?
★★☆☆☆
訳の日本語におかしいところが多く、読むのに苦労しました。
「私は彼は○○〜」といった、一見誰が主語か分からない文章や、
直訳したかのような意味不明な言い回しなどが多くあります。
ところどころ分かりやすく、雰囲気の伝わる美文も
ありましたが、本当に読むのに一苦労で、
良いお話なのにもったいないと思いました。
英国の知識階級のあり様
★★★★☆
世界文学全集の一冊。
フォースターは、映画『眺めのいい部屋』や『モーリス』の原作者だってことは知っていたが、読んだことがなかった。イギリスの小説自体、あまり読んだことがなかった。
現代の日本ではあまり意識したことがない階級が、厳然と存在し、人々の生活、愛さえも規定している社会を、ハワーズ・エンドという家を中心に、冷徹な目で描いている。
登場人物は少なく、事件も少ないのだが、人間って生まれ落ちる社会によって、人生が決まってくるものだなぁって考えさせられた。
階級によって閉ざされた社会の閉塞性がそれを打破しようとする思想を生む。英国の知識階級は、自らが特権階級に属しながらも、その必然性を感じていたのだろう。
翻訳が!
★☆☆☆☆
別のかたも書いておられますが、私などはこの訳で読み通すのはとても無理。
文章の意味がすんなり頭に入ってこない。頭の中でもう一度日本語に翻訳しながら読まされているような感じがしました。
しかしこの小説を読むことは諦められないので小池滋訳を買い直して読み始めてみたら、
なんと……
めちゃくちゃ、めちゃくちゃ面白いじゃないですか……!!! まるで別世界。
香気が何だっ! フォースターの小説が、そもそも楽しく読めない翻訳というのはどうなんだ?! 原文を知らないからそう思うのかなあ。
しかしあやうく挫折するところだったぞ……。
これから買う人は、一応翻訳を一部読み比べてから買ったほうがいいかも。
個人的に第1期の中では一番印象に残りました。
★★★★★
自分はまったく世界文学に対して門外漢でした。今回、池澤夏樹文学全集を良い機会に、世界文学にチャレンジしているものです。
第1期を読破して振り返ったとき、一番「面白かったな」と思い出すことが出来たのがこの「ハワーズ・エンド」でした。
しかし、一方、月々読んでいて、一番ペースが遅れたのも「ハワーズ・エンド」でした。理由は皆さんご指摘の翻訳の問題。他の訳者が訳されたものと読み比べていないのでもしかしたらこの訳だからこそ面白かったのかもしれないです。けれど、見慣れない日本語でした。
「ただ結びつけることさえすれば・・・」という扉の文句に集約される物語。文化的、政治的、色々切り口はあるけれど、自分はなにより家庭小説として読みました。ウィルコックス氏とマーガレット程ではないにせよ、夫婦で価値観が異なるのは当たり前。それを諦めたり攻撃したりする方向に持っていかず、必死で繋げようとするマーガレットの姿にとっても好感を持ちました。それに対して、ウィルコックス氏の鈍いこと!ヘレンの偏狭なこと!ある意味パロディな展開でした。
この作品の題名になっている「ハワーズ・エンド」はウィルコックス氏の前妻で、マーガレットの友人であった夫人の愛した家。最初はなんでこんな題?と不思議でした。夫人は旧時代の夫に付き従うのが当たり前な人だったけど、それでも新しい世代のマーガレットも受け入れていく。最初にそうやって繋がっていく一歩を踏み出した人だった。その人が愛した家というのが、「繋がること」の象徴となっているのは全部を読んだときすとん、と心に届いてきました。そのプロットの構成の見事さに「御見逸れしました」と思わず頭を下げました。
格言になりそうな言葉が一杯あることもこの作品の魅力です。今手元に本がないので書けませんが、読んでて付箋で一杯になりました。
今に繋がる・・・・
★★★★★
「小説は書き出しが大事である」と池澤が「月報」で書いているその書き出し。
「まず、ヘレンがその姉に宛てた何通かの手紙から始めたらどうだろうか。」となっている。
本書を読み終わってからまたこの書き出しに戻って、妹ヘレンがその姉マーガレットに宛てた3通の手紙をもう一度読み返してみる。なるほどそうだったのか、とガッテン!!
約100年前(1910年)に発表された本書は、21世紀の社会・経済の諸問題を早くも浮き彫りにしている。
「所得格差問題」然り、「シングルマザー問題」然りである。
「ただ結びつけることさえすれば・・・」という扉の言葉も意味深である。
何と何を結びつけるのか、何と何が結びついているのか。
イギリスの上流階級の中で進歩的知識人のシュレーゲル家と、実業界の保守派・ウィルコックス家の結びつきであり、
彼らと金融会社をリストラされたレオナード・バストとその妻ジャッキーといった貧民クラスとの結びつきである。
マーガレットの金銭感覚は21世紀初頭の日本の「ヒルズ族」を髣髴とさせる。
「・・・・・一番恐ろしいのは愛情のなさではなくて、金のなさではないかと思い始めた」彼女は、「そう金持ち、金がすべて」といっているのを読むと、「金儲けの何が悪い」と開き直ったあの村上某そっくり。
尤も社会主義に目覚めたヘレンはこの姉の意見に対立する。その二人も最後は・・・・・。
物語の前半でウィルコックス家の人々と我々読者には知らされているが、シュレーゲル家の人々には知らされていないある事実が、どうなるやら気がかりであったが、最後の最後にとてもスマートに解決することになった。
作者は最後まで我々読者にお楽しみを残しておいてくれたのだ。