これまで謎だと思っていたものが、意外にも最新の研究によって解明されていることに驚かされる場合が多い。記憶と脳に関する謎を、進化生物学や心理学がどこまで明らかにしたかをまとめた本書は、そんな意外な驚きに満ちている。
解明されているのは、「物忘れ」「不注意」「妨害」「混乱」「暗示」「書き換え」「つきまとい」の「記憶の7つのエラー」。いずれも、ふだん誰もが感じているような記憶にまつわる謎にスポットが当てられている。
たとえば、人の名前を思い出せないといった「物忘れ」では、そのメカニズムに加えて、記憶力と時間の経過、加齢の関係、「情報のコード化」という物忘れを防ぐテクニックなどが解説され、また、約束を忘れたり車の運転中にしばし記憶がとんだりする「不注意」は、心理学の新領域から解明されている。なかでも苦しめられることの多い、嫌な記憶が忘れられない「つきまとい」では、「トラウマは忘れられるか」という興味深い視点が盛り込まれている。
随所に引用されるエピソードもおもしろい。実は物忘れがひどい全米記憶チャンピオン、事故で大脳の一部を損傷し「固有名詞失語症」になった男性、リーグ優勝をかけた試合で失投した記憶がつきまとい自殺した投手などの事例は、それこそ記憶に残るものだ。
最後に著者は「7つのエラー」について、「脳というシステムがもつ欠陥ではなく、むしろ優れた適応性なのではないだろうか」という論を展開している。記憶と脳の謎を通して、人間の深遠に迫る筆致が想像力をかきたててくれる。(棚上 勉)
Schacterのこの本の翻訳が出たのは素晴らしいことです!
★★★★★
記憶の研究で有名なあのSchacterによる本です。この本の前に出たSearching for Memory(おそらく日本語訳なし)も無茶苦茶面白かったのですが、この本も無茶苦茶面白いです。精神科学や心理学の専門家も楽しく読めるでしょうし、全くの素人の人でも楽しく読めると思います。人間の記憶の意外な一面を沢山みせられて「へえ〜」と感心することうけあいです。
文句無く面白い!
★★★★★
タイトルだけ見るとただのハウツー本かトンデモ本のように思われるかも知れないが、そうではない。
本書は記憶研究の専門家である著者が、自身の研究、および最新の研究結果に基づいて記憶に関する幅広い領域をカバーする良書である。
最近の記憶研究の成果だけでなく、PETやfMRIによる機能的脳画像研究の成果、比較行動学の知見、進化論的な考察などを紹介し、すべての人々に読んでもらえるよう平易な文章で書かれている。
大変興味深く読んだ。
思い込みについて謙虚にしてくれる本
★★★★☆
記憶に生じる誤りを7つの種類に分け、それぞれについて平易な解説が試みられている。脳の働きについての専門知識が無くても楽しく読めるし、分量も程良い。もうちょっと訳に工夫が欲しいという箇所が幾つか有るが、語り口は概ねテンポが良く、色々な実験結果を紹介しながら展開するので、『特命リサーチ200X』でも見ているかのよう。日本向けを狙ったかのかどうか知らないが、冒頭川端康成の小説の一シーンが紹介されるのも引き込まれる。とにかく読んでみて記憶というものが実は如何にいい加減なものかよく解った。暗示を使えば、現実とは違った記憶を比較的簡単に作り出せるというのは考えると空恐ろしくなる。今後個人的には出来るだけ記録を残して、自分で間違いないと思っている記憶についても時には!謙虚になるべきなのかとも思った。
人間の「記憶」はおもしろい
★★★★☆
記憶の研究というのは大変に興味深いものだ。自分自身の体験と比べながら考えることが出来るのも、そのおもしろさの一因だろう。本書は広範囲にわたる研究成果を、日常生活と関連付けながら概観でき、翻訳も読みやすい。一般の社会人や大学生の教養書として良書であることは間違いない。
専門の研究者には物足りないだろうが、それでも一読をお勧めする。専門家はとかく視野が狭くなりがちだからだ。
ただ、本文中には指示がないので、読み終えたところで「原注」があるのに気が付く読者も少なくないだろう。
英語版と日本語版の表面的な比較
★★★★★
私は日本語版と英語版を読み比べてみました.
そこで気づいた表面的なことをレビューします.
①エッセイ調の軽妙な文体なので飽きずに楽しく読めます.
科学論文の文体ではありません.
ただ,逆にそのエッセイ調の文体(ちょっとしたレトリックなど)につまずいたということもありました.(もちろん読めないほどではありません).
②文章中には実験や過去の出来事なんかが多数紹介されていますが,日本語版にはその出典がかかれていません.
英語版では巻末に出典がのっています(文章中での,Schacter,D.L.(1999)というような表記はありませんよ)