戦後間もなく時期にこのような広大な史観をもっていた人がいたことは驚くべき事だと思います。宮崎氏の世界史的視点は、かの「地中海」の著者フェルナン・ブローデルの歴史観に相通じるものがあるともいえるでしょう。また、宮崎氏の著作の魅力の一つは叙述の巧みさにあります。漢文的な叙述は、近年のエッセイなどに慣れ親しんだ人からすると、最初はとっつきにくく感じるかもしれません。しかしながら、その叙述は彼の論理的な思考とも相まって、簡素ながらも含蓄のある表現を生み出しています。
このように日本の歴史家としては突出した魅力を持つ著者ですが、気になった点がひとつあります。それは世界史的視点にこだわるあまり、文明の衝突や歴史の激動に翻弄されつつも、懸命に生き、偉業を成し遂げる個人の側面があまり描かれていないということです。しかし、宮崎氏の広大な視点はそれを補って余りある魅力をもっています。