花咲チラさんとねこちゃんの話
★★★★★
楽しみにしていた市川里美さんの新作。文は角野栄子さん。
どことなく市川さんの住むフランスの匂いのする絵が、しっとりと胸に迫る。
つつましい暮らしのおばあさんのチラさんは、ねこちゃんと二人暮らし。
チラさんのささやかな願いが叶えられるまで、ちょっとばかりミステリアスに
そして、ほんのりとしたユーモアが散りばめられて話が進む。
大都会の暮らしは、人間らしい空間を奪うことで成り立っている面がある。
老人の孤独や諦観を、角野さんの文はうまく表し、
市川さんの絵がさらにチラさんの内面を如実に描きだす。
読んでいて救われたのは、チラさんの表情がビビッドに変化していくこと。
よい空気を吸い、明るい陽の光を浴び、風景を心に宿す。
人と関わり、食べることを少しばかり楽しむ。
そんな人としての喜びを、チラさんと再確認できたことに、安堵した。
しかし、再確認しなければならない状況にあるということに少なからぬ戦慄も覚え、
「老い」と「生活」、「環境問題」といったことを、抱えながら老いなければならない
わたしたちの未来に、どきりとしたのも事実である。
読後、コンセプトは異なるものの『パリのおばあさんの物語』が、
しきりと思い出されてならなかった。