良いです。
★★★★★
『若草物語』において異様なのは、徹底した父の不在です。
オルコットにとって父である、超絶主義者であり理想だけに生きた著名な教育者の父ブロンソンは、その理想を貫徹するために家族を捨てようとした存在です。オルコットが作家として金を稼ぎ家族を養おうと子どもの時に決意した動機の1つはそこにあります。
だからといって父親を憎んでいたわけではなく、父の面倒を見続けます。その愛情は、かろうじて残されている日記の一部からも伺われます。
二人は共に危篤となり、父の死後二日目にオルコットも亡くなりました。
このフィクションは、『若草』における不在の父の側を描いています。そのための資料やインスピレーションに使われたのは、ブロンソンの著作や、言及された書物。
見事なフィクション、そしてメタ・フィクションなのですが、『若草』の舞台を借りてブロンソンを描いたと考えるなら、優れた歴史・伝記小説ともいえるでしょう。
これを機会に『若草物語』の背景(深いです)に興味を持ってくだされば幸いです。
絶品。(ひこ・田中)