人間的な感情を極力廃し、冷徹に刑場に引き出された人物の罪状と、下された刑の内容を記した覚書です。フランツ親方の心情が吐露される部分は稀で、そのため処刑人自身や罪人と称された人々の人生に対する読み手の想像力はかきたてられます。グリム兄弟やアルニム、詩人ブレンターノが耽読したという話にもうなずけます。ただ、本当に淡々としているので、何もかも説明してもらうことに慣れた方ですと、処刑の覚書の一つ一つが代わり映えのしないものと写り、退屈に感じるかもしれません。
殺人、強盗、暴行、詐欺、そして姦通や男色など罪の内容は様々ですが、個人的には嬰児殺しが多い点に驚きました。フランツ親方が生きた時代には有効な避妊法が無く、あったとしても宗教上の理由から使用を許されなかったことでしょう。当時と現代の嬰児殺しでは動機という点で大きな相違があるかもしれませんが、古くからある深刻な犯罪ついて改めて考える機会になりました。