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ヒトラーの防具〈下〉 (新潮文庫)

価格: ¥780
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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オーボエ奏者から ★★★☆☆
 古くは清岡卓行「フルートとオーボエ」から近くは「のだめ」まで様々な作品の重要なポイントで顔を見せて来たモーツァルトのオーボエ協奏曲。戦時下のドイツという重い主題の中で切なくも美しい音を奏でてくれます。
 ただ、今後映画化などされる場合に備えて、考証面で幾つか詰めを直しておく必要があるでしょう。(以下、上下刊併せて述べます。)
まず、「ベルリン交響楽団」という団体は戦中には存在しません。Berliner Symphoniker は戦後の設立。戦中にフルトヴェングラーが指揮するクラスのオケなら、「ベルリン・フィルハーモニー」か「ベルリン国立歌劇場管弦楽団」、又は放送局や映画会社(UFA)の専属オケか。
(上)P.172 オーボエのリードは大量生産は出来ませんが、やはりスペアも必要なので4〜5本くらいまでは纏めて作ります。
P.216〜217 オケのメンバーでも協奏曲のソリストとして出る時には、他の曲には出ません。オーボエは普通2本使いますが、モーツァルトの協奏曲にもソロとは別に2本必要です。ルントシュテット氏と別に「副首席」の奏者がいて、3曲ともオケの1番を吹き、ルントシュテット氏は協奏曲だけに出て、「英雄」では客席から後輩(弟子か)の演奏を見守っているのが普通。
 P.231 「緞帳が下りる」とありますが、オペラ劇場での演奏会でもオケだけの場合は(劇がない場合は)「緞帳」は下りません。そのまま散会します。また建築家で軍需大臣のシュペーアが車の運転が好きで造詣が深かった事は知られていますが、フォルクスワーゲンのビートルに乗っている想定は疑問。メルツェデスの2シーターあたりが自然。(あ、全員乗れないか・・・)
P.308〜309 日本の箏のSP盤は当時からヨーロッパでも出回っていましたが、明治以降の「西洋音階」による童謡・唱歌ではなく「日本音階」による「さくら」や「千鳥の曲」「六段」などが適当でしょう。
 P.479 「ブランデンブルク協奏曲」(バッハ)は6曲あり、第1番と第2番だけにオーボエの出番がありますが、3人だけで演奏できる部分はありません。また6曲ともクラリネットは含まれていないので、ヒルデの伯父が(たとえ想像でも)自分で演奏する事はありません。クラリネットが実用化されたのはバッハよりずっと後のモーツァルトの時代でした。
(下)P.350 etc.フィルハーモニー・ホールは空襲を免れたが、近くの楽団員宿舎が爆撃されたという設定は、ちょっと苦しいと思います。フィルハーモニー・ホールも国立歌劇場もいずれも爆撃で破壊されていますが、時期が異なるので(手許に正確な資料がなくてすみませんが)ストーリー設定に今ひとつ注意が必要かもしれません。従ってルントシュテット氏が爆撃で亡くなった経緯については、少し書き直しが必要かと思います。(例えば「楽団有志で子供のための室内楽の巡回演奏に出かけた時に爆撃された」等の、別のストーリーを挿入すると自然になるでしょう。)
P.119 諏訪根自子の「クロイツェル・ソナタ」は一人では演奏できません。ピアノ伴奏者(多分ドイツ人)と二人で登場して合奏を始める設定でなくてはなりませんし、最低限、会場にグランドピアノがある設定でなくてはなりません。(このヴァイオリンはゲッベルスから贈られたもの。シュペーアもその場で付言するはずです。なお晩年の諏訪さんが1980年代にこの楽器で録音した素晴らしい音源がCD化されています。)
 こうした点をクリアーした上で、是非とも映画やTVの映像として(制作は大掛かりになって、「坂の上の雲」に匹敵するスケールになって大変でしょうが)、味わってみたいものです。
 
 
飽きさせない歴史フィクション ★★★★☆
正直なところ、著者の文章力には疑問を感じた。これで小説家なのか・・・?
まぁ実はお医者さんだと言うことを知らずに読んだのだが、文章のまずさにも
かかわらず、実は一気に読んでしまった。

本書の主な登場人物は、第二次世界大戦下のドイツに生きる一般人だ。もちろん
主人公は軍人(日本人)だが、世界の大局に対してはまるで無力であることは、
大家さんや兄や、その他の主要人物と変わらない(アドルフ・ヒトラーなども登場
するので全員ではないが)。激動の時代の中で一市民として、より良く生きようと
模索し、苦しむ人々の姿が胸を打った。ドラマとして非常に一本筋の通った構成で、
これで読むのを止めることが出来なかったのだ。

ところで最後のほうに出てくるヴァン湖はドイツ語では「ヴァンゼー」、その
湖畔でナチス幹部がユダヤ人の「最終解決」を相談した場である、ということを
心得ておくと、結末が身にしみてくる。
前後の現代(東西ドイツ統一直後)編は蛇足なような気もするが、主人公の
行く末を描くためには不可欠だったのだろう。また、個人が歴史の中に埋もれて
いくさまは、当然とはいえ、切なくもあった。
奪われることの悲哀 ★★★★★
このような作品こそもっと広く読まれるべきである。心の底からそう思います。戦争という個人の力を大きく超えた酷烈な状況の中で、それでも人としてあるべき生き方を忘れない主人公。極限状況下で初めて人は「なにが正しいのか」ということを深く知ることになるのかもしれません。作中に出てくる「真実は弱者の側にある」という言葉が忘れられません。
ただ、あまりに悲しい。読後には深い感動と共に胸を締め付けられるような悲しみの想いが残りました。

ストーリ構成の点もすばらしい。これほどの分量にもかかわらず読者を飽きさせないところに帚木氏の力量のすごさを感得できます。

単なる戦争文学を超えた大作。長く読み継がれるべき作品です。
作品の展開が史実をおいすぎている ★★★☆☆
戦時中に日本からヒトラーに剣道の防具が送られた。という設定を軸に、日独混血の香田少尉の視点から戦争と国家を描いた作品。

この設定自体は非常に面白く、優れていると思うのでが、作品の展開が史実をおいすぎている気がした。私としては、もうすこしサスペンス性の高い展開を期待したのだが・・・

よい作品だとは思うが、私としては「逃亡」のほうが好きである。

親愛なる… ★★★★★
本作品を読み終え、あと残す所数冊。の箒木作品となりました。

正直な所、上巻とほぼ同時に読み始めた同著者作である『薔薇窓』に気をとられはしたものの、下巻に入り久々に胸ときめいてしまったのは語り手である“香田少尉(昇進してゆきます)”。著者の思惑は全く別な視点であると承知の上ですが、女性ならこの『ヒトラーの防具』という歴史小説、思想哲学とも言えるこの作品を支える語り手に、心を奪われるのではないでしょうか?!