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逃亡〈上〉 (新潮文庫)

価格: ¥882
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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意外に身近な「憲兵」 ★★★★★
私の祖父(すでに死去)は、北朝鮮で終戦1〜2年前まで憲兵をしていました。また、祖父一家は、いわゆる朝鮮からの引揚者で、九州で非常に苦しい生活を送っていました。

本書を読んで、小さいころ、祖父や父から聞かされた苦労話が鮮明によみがえってきました。そして、「憲兵」というと、自分と全く遠い世界のように思えるかも知れませんが、意外と自分の親族などをたどれば、そう遠い話ではないケースもあるのではないかと感じました。

また、現代の日本も、スパイ防止法は存在しないものの、やはり公安や内閣情報室等の諜報組織はあります。2009年、NHKで公安組織のドラマ「外事警察」が放映されましたが、そこで展開された捜査手法は、本書での捜査手法とうり2つです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%96%E4%BA%8B%E8%AD%A6%E5%AF%9F

諜報組織は、国家が存続していく上で不可欠な存在なのかも知れません。にもかかわらず、そのあまりのダークさ故、国家にとって不都合になると、真っ先に切り捨てられることもあるような悲しさを宿命として持っています。

本書は、そうした悲しさをファクトの積み上げによって読者に訴えかけてくる力作です。

なお、本書に関する自分自身との関わりについては、別にブログを書いていますので、そちらも紹介しておきます。
http://www.chieichiba.net/blog/2010/03/by_jin_45.html

(by JIN@<おとなの社会科>
ものすごい読みごたえ ★★★★★
上下巻の大作だが、読み出したら止まらず、3日間ほどで読み終えた。大変な読みごたえ。
最初から最後まで驚くほど詳細で克明な描写。物語そのものを実際に生きた人でなければとても書けないような筆致。客観的な書きぶりが魂の叫びを際立たせる。そして、重層的な物語の展開が圧巻。
戦争とは何か、それにかかわった個人の存在と役割は何なのか、そして命を生きることの意味は何かなど、いろいろなことを考えさせられる。また、これまでもよく耳にしていた「憲兵」の活動、BC級戦犯の意味などを初めて理解した気になった。
『憲兵』の実態と戦犯逃れの逃亡記。 ★★★★★
■ 【フィクション?ノンフィクション? 】
戦後55年。2000年に出版されたこの本の著者は、53歳
の戦後生まれ。この長編作品は、フィクション?ノンフィ
クション?描かれていることが、大変詳しく、かつ、リアリ
ティーを持っている。しかし、その答えは、下巻の巻末の
久保光彦氏の(あとがき)寄書で明かされております。

■ 【戦犯逃れの逃亡記 】
主人公は、香港(占領下)で(日本軍)憲兵だった「守田
征二」。大東亜戦争の敗戦を迎えるところから物語が始
まります。占領下での(日本)軍隊の略奪、焼打ち、凌
辱、レイプ、拷問など。それらを見逃し、現地密偵を使っ
たスパイ行為の頂点に立つ憲兵は、敗戦と共に、目の
敵であり「憲兵狩り」の標的です。辛うじて、日本に帰還
すると、今度は、占領軍のGHQの戦犯追跡に会いま
す。しかし、結局は巣鴨プリズンに収監され、そこでの生
活で終わります。

■【車は急に停まれない!軍・警察癒着 】
巣鴨プリズんへの収監前の警察の扱い、収監後の香港
移送への手続きの遅延ぶり、など軍と戦後警察の癒着
、敗戦時の、軍と官僚による責任逃れの一斉焚書、レッ
ドパージ、講和条約によるA級戦犯の釈放、元軍属(本
書の元憲兵守田も含まれる)への軍人恩給など、一連
の戦前の反省が中途半端に終わり、敗者自ら裁くことを
せず、戦犯自ら「世捨て人」にもならず、戦後政治の舵
取りをして今日に至っているのも残念ながら事実です。

■ 【『憲兵』は何をしたか? 】
本書で明されている、『憲兵』の記述は新鮮なものでし
た。恐らく、元憲兵の多くは、既に鬼籍に入られ、又、自
分達の行為は、戦後日本に帰還したものの他人に語れ
るものではないと思われます。著者は、恐らく、それらの
人々から貴重な体験談を元に、息をも吐かせぬ凡そ
1200ページの長編アクション小説に纏め上げております。
国家・戦争・個人 ★★★★★
友人から「君は国を愛していないの?」と尋ねられたことがある。私は「なら国は君を愛してくれているの?」と言下に尋ね返した。友人は黙っていた。

本書の主人公は逃亡を余儀なくされた戦犯である。彼は国家のために身を賭して働き、人倫に悖る行為をもあえて引き受けた。
その見返りが国家による裏切りだ。
辛うじて命をつなぎ戦地から家族の下に帰還し、ようやく安息が得られると思った。しかし突如として今度は国家から追い詰められていく。
「愛国心」「国のため」を称揚していたのは誰だったか。
国家の欺瞞に滅茶苦茶にされた個人の人生は一体何によって贖われるのか。主人公やその家族、逃げ回る戦犯たち。本書に登場するのはいずれも国家そして戦争にたった一つしかない自分の人生を蹂躙された者ばかりである。

どうして人間がここまで理不尽に翻弄されなければならなかったのか。
幸福な時代に生まれた私の生活の背後には、自らの力を大きく超えた暴力に常に怯えていなければならなかった人々の苦悩があった。
そのことを強く胸に留めておかなければならないと思った。

読むことがこれほどつらくなる小説はなかった。
しかし、なんとしても読まなければならないとこれほど強く思った小説もなかった。
戦争の“愚か”さ ★★★★☆
戦争中憲兵(特高警察)として香港で厳しく治安維持にあたっていた主人公が敗戦後一転して戦犯に指名され、その理不尽さゆえ中国大陸から日本、そして日本各地を逃亡するという、文庫版で上下合計1200ページの大作でした。

97年の作品で柴田錬三郎賞を受賞しています。

原爆を投下して罪もない一般の人々を何十万人も殺したアメリカが罪を問われず、上官の命令で対日不満分子をはからずも手にかけてしまった者が、敗戦国ということで指名手配される。

作者はその不公平さ、理不尽さから戦争の愚かさを訴えているように思いました。