通史ではないが、物語としてスペインを知るには最適
★★★★☆
スペインの長い歴史を大きな事件だけ取り出し、この国の複雑な歴史を俯瞰できるようになっている。スペインは情熱の国だとか、昼寝しているだとかそういったバラ色の先入観を、作者の目論見どおりに捨てさせられる。
取り上げている大きな事件は、イスラムの侵攻、レコンキスタ、スペイン黄金時代のレパントの海戦、無敵艦隊の敗北が主なところである。レパントの海戦については、時間ごとの詳細な図解があり、非常にわかりやすい。塩野七生のレパントの海戦 (新潮文庫)はヴェネツィア側から見ているが、さんざんこき下ろされていたスペイン側の事情も分かる。
さらに、ドン・キホーテを書いたセルバンテスを登場させているのがユニークである。セルバンテスはスペインから出てきてレパントの海戦に参加したのだ。海戦でのセルバンテス、その後スペインに帰る途中でイスラムの捕虜となった話、脱走を試みた話、無敵艦隊の食料調達係をしていた話。セルバンテスを追うことで各国の事情も見えてくる面白い作りの本だ。
スペインの歴史
★★★★★
スペインのイスラムに征服されてからレコンキスタが達成するまでの王国同士の史実が書かれています。キリスト教とイスラム教の異なる点、同じ様な点が区別出来ます。この時代のスペインの歴史(特に人物史)を読み解くにはわかりやすいと思いました。
華やかな国の重い歴史を楽しく語る
★★★☆☆
スペインという国、小生はモチロン行ったことがありませんが、闘牛だのフラメンコだの、何やら情熱的でエキゾチック、よく分からないけど楽しくて明るい国、というイメージです。歴史的にも、イスラム勢力とキリスト圏の交錯地、ハプスブルク世界帝国の牙城、そして大航海時代の先駆者など、派手で華やかな雰囲気に包まれているように見えますが、実際のところ、その歩みには、やはり重くて深いものが秘められているようです。
本書は、スペイン史上の幾つかの場面をピックアップし、それぞれの時代背景等にも簡単に説明を加えつつ、オムニバス風にこの国の歩みを紹介するものです。ターリックのイベリア征服、レコンキスタ運動と異端迫害、カール5世のスペイン統治とレパントの海戦、無敵艦隊による英国進攻の計画、スペイン内戦とETAの跳梁跋扈など、この国の歴史を彩ったハイライトとも言うべき名シーンが取り上げられており、きわめて大雑把ながら、この国のアイデンティティー形成につながる粗々の流れが一望できるように工夫されています。
著者の専門はスペイン文学というだけあって、本書の文章は詩的な表現に彩られています。まがりなりにも歴史の本にしては情緒的に過ぎるというご意見もあろうかとは思いますが、読んでいて殊のほか味わい深く、「物語」と銘打った本シリーズに相応しい趣向ではないかと思います。
スペイン史をきちんと理解したいという方々にはともかく、「スペインって一体どんな国なのか、取り敢えず知りたい」という向きには手ごろな良い本だと思います。
スペインって面白い、と思った
★★★★★
とりわけスペインに興味があったわけではないのだが、ヨーロッパ各国の歴史を知る必要に迫られこの本を読むに至った。そして、今までパエリヤとしかスペインと縁の無かった私に、‘スペイン’そのものへの興味を持たせてくれたのがこの一冊である。
興味を抱かせてくれた理由の一つは著者の文章力+“どの人にもわかりやすいように”という優しさが込められた「史実とフィクションのかけ合わせのうまさ」である。『物語 スペインの歴史』という題名の‘物語’という部分を最大限に生かし、史実を妨げることのない想像の光景や登場人物の感情等がこの本にはふんだんに盛り込まれている。
もう一つの理由は、本文の数章の主役が、幼い頃に読んだ『ドン・キホーテ』の著者セルバンテスであったことだ。幼かった私にとって、ドン・キホーテの行動、言動があまりに理解不能だったため、薄っすらながらあらすじが脳裏にずっと残っていた。今回その奇妙なキャラクターを描き出したセルバンテスが軸になる章に出会い、『ドン・キホーテ』の中にセルバンテスの人生の破片がちりばめられていることをはじめて知ることができたことは自分にとって思いがけない収穫であった。セルバンテス自身の人生は彼自身の著した物語よりも奇なり、といってもいいのではないかと思う。
また、‘スペイン無敵艦隊’が実は無敵ではなかったという事実は衝撃であった。歴史教科書にさえ採用されているこの名称が実は当時の敵国イギリスによって皮肉の意味を込めて言われたものであったとは!
私は、中公新書の『物語 ○○の歴史』シリーズを数冊読んだが、自分の感性にもっともしっくりきたのがこの本であった。
興味のある時代が合えばよし…
★★★★☆
本書の特徴はまさにその章立てに如実に示されている.
まえがき/第I章 スペイン・イスラムの誕生/第II章 国土回復運動/第III章 レパント海戦/第IV章 捕虜となったセルバンテス/第V章 スペイン無敵艦隊/終章 現代のスペイン/あとがき/スペイン略年表
3,4,5章が充実している一方,無敵艦隊以後「市民戦争勃発」まではほとんど触れられていない.あとがきによるとアンバランスは承知の上であえてそうしたようだ.著者と興味が一致した読者には有用な参考書となろう.