興味深い視点の本ではあるのですが
★★★★☆
従来のプロ野球の本にありがちな情緒的で非論理的なところはなく、
あくまでもデータに基づいた分析を徹底しようとしている姿勢は非常に
斬新であると思う。確かに現在のプロ野球は危機が叫ばれているが、
ただ単に巨人が人気を失くしているだけではないのかと言う指摘には
考えさせられた。
ただ、データで無理やりな推測も目につく。たとえばオリックスの黄金期
の理由を阪神大震災による負のパワーの興隆と、復興による転落と結論
づけており、データ上は全くその通り。ただ、その時神戸にいた人間から
すると、オリックスは震災前年のイチロー登場、その後イチローを中心に
強くなったチームに盛り上がったが、それ以上のテコ入れを怠ったチームに
皆飽きてしまい人気を失っただけであり、「震災」はあくまでおまけの位置づけ
だと思う。
このようにデータによる分析はそれなりの説得力はあるが、データだけでは
すべてではないし、中々判断の難しい本。他の方が書いているような「痛快」な
本では無い。それと他の方も言っておられたが、内部の人間が書いていないと
言うだけで、題名「ファンから観た-」にあるようなファン目線の本では無い。
斬新な視点
★★★★☆
まっとうなプロ野球ジャーナリズムが多い中、こういう視点の分析本は実に痛快で読み応えがある。実際読んでみると「ファンから見た」というより、完全に経営的な視点に立った本だが、プロ野球の経営的な問題点が浮き彫りになって、これこそ経営サイドに読んでもらいたいと思いました。
経営学者が診たプロ野球経営分析。面白いです!
★★★★★
たいへんエキサイティングな本である。
本職の経営学者(もちろん野球ファンでもある)が「経営」の視点で記述したプロ野球史であり、これまで書かれたことのない視点でプロ野球が分析されている。面白いったらない。
試合をするのは選手であり勝利への采配をふるうのは監督であるが、そのための戦力を整えるのは編成部の力量である。そして戦力の調達のための資金を獲得するためには、宣伝・営業等のビジネス部門が頑張らなければならない。
考えてみれば当たり前のことであるが、そのような「経営体としての力量」がチームの成績を決定するようになってきたとということが、本書におけるプロ野球の歴史分析を読むと良く分かる。近年の北海道日本ハムファイターズの強さ、それに先立つ福岡ソフトバンクホークスの台頭などは「経営の総合力」によるものと分析され、極めて説得力がある。
逆に、90年代にタイガースが低迷したのは「過少投資による」と明晰に分析されている。このような外部からの指摘もあって、阪神グループは「タイガースのブランド価値を意識し」近年投資を行うようになったことが「猛虎復活」の大きな要因である。
編成や営業も含めた球団経営の近代化に大きく貢献したのが根本睦夫氏であった。そのプロセスが詳しく語られており、示唆に富む。選手としても監督としてもさしたる成績を上げていない根本氏が野球殿堂入りしたことは、球界でもその功績が広く共有されているためだという。
人口減少時代を迎えた日本社会では、様々なシステムが変革を迫られている。プロ野球もその例外ではない。プロ野球の「これから」を考えるときの、必読書のひとつと言えるだろう。